http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201308230507.html
朝日新聞 2013年8月24日
労働経済ジャーナリスト 小林美希
「マタハラ」をご存じですか? マタニティー・ハラスメントの略で、連合は「働く女性が妊娠、出産を理由に解雇、雇い止めされることや、職場で受ける精神的、肉体的なハラスメント」と定義。セクハラやパワハラと並び、働く女性を悩ませる3大ハラスメントの一つとしている。
連合が5月に発表した調査では、マタハラの被害を受けた女性が26%もいた。昨年、同じ連合が調べたセクハラ被害者の17%を上回った。
男女雇用機会均等法は、非正社員を含め、妊娠や出産を理由にした解雇や雇い止めを禁じている。妊娠中に医師から指導があった場合には、事業主は、妊産婦に対し業務の軽減をはかることなどが義務づけられている。
だが、働く現場では同法は十分に浸透していない。そればかりか、職場の人手不足や周囲の無理解のため、妊娠中の長時間や過重な労働から抜けられない場合も多い。その結果、染色体異常で避けられない流産ではなく、労働負荷が原因とみられる流産が頻発している。
私はこれを「職場流産」と呼び、ルポルタージュ本にまとめた。マタハラの最悪のケースだ。取材では妊娠初期にニューヨークへの出張を断り切れず、米国で流産を経験した女性などに出会った。彼女はもう1度流産し、2日間入院することになったが、その間も病院で、会社にメールを出すなど仕事に追われた。
専門家の監修を受けた私の試算では、妊娠中の環境がよければ流産を避けられ、少なくとも今より毎年2万人以上の子どもが生まれる。均等法や労働基準法が定める母性保護について周知され、守られるだけでも状況は一変する。労働環境さえ変えられれば、救える命がたくさんあるのだ。、
女性が妊娠、出産しやすい職場作りは、職場全体にもプラスだ。日頃から「仕事の見える化」を進め、一人で案件を抱えずに同僚とシェアすることで柔軟な組織ができる。自然と、技術や人脈を伝承することにつながる。男性社員にとっても急な病気やケガをしたり、親の介護で休暇が必要となったりしても、対応可能となる。
多くの女性は今、職場の上司に「すいませんが妊娠しました」と謝っている状況だ。本来はめでたく望んだ妊娠でも、仕事を続けられるか、職場に迷惑をかけないかの不安が先立つからだ。妊娠を堂々と報告でき、同僚から祝福される職場こそ、男女共に働きやすい。「マタハラ」は決して女性だけの問題ではない。 (構成・高野真吾)