東京社説 競争力強化法案 これが成長戦略の要か

東京新聞 2013年10月26日

 政府が国会に提出した産業競争力強化法案は成長戦略の切り札との触れ込みに反し、失望感漂う内容だ。肝心の賃上げに結び付くような具体策は乏しく、アベノミクスの失速懸念が強まらないか。

 大胆な金融緩和の「第一の矢」で円安・株高の流れができ、機動的な財政出動の「第二の矢」で景気を支えてきたアベノミクスだが、六月にまとめた成長戦略の「第三の矢」は市場から評価されがたい内容であった。

 それは従来の経済対策と同様に「官僚による官僚のための成長戦略」の域を出ず、各省庁が予算獲得を目指して出した事業の寄せ集めにすぎなかったからだ。市場の冷淡な反応を受け、安倍晋三首相が「秋にもう一段の成長戦略を打ち出す」としてまとめたのが産業競争力強化法案である。

 法案の柱は、企業の重荷となっている供給過剰体制や過当競争をなくす「産業の新陳代謝」を促すことと、やる気のある企業に対して企業単位で規制を緩和する新たな制度を設けることである。

 しかし問題なのは、ビジネス経験もなく企業経営について素人の官僚が、事業再編といった企業の命運を左右する分野に口出しする仕組みになっていることだ。

 数々の失敗を忘れたのだろうか。電機大手三社の半導体メモリー事業を統合したエルピーダメモリは、政府が公的資金を投入したが結局、製造業として過去最大の負債を抱えて経営破綻し、国民負担が生じた。

 本来、淘汰(とうた)される企業を、乱立した官民ファンドが延命させる悪例もある。失敗しても責任を負わない官が個別の経営に関与すべきでないのは当然だ。

 安倍首相はアベノミクスが正念場にあると危機感を持つべきだ。来年四月からの消費税増税が決まり、物価上昇の動きは一段と加速しよう。賃金が上がらなければ国民生活は苦しくなるばかりである。トヨタや日立製作所など大手企業の一部や連合が賃上げに言及したが、大多数を占める中小企業や非正規労働の待遇改善はどうなのか。

 臨時国会の所信表明演説で「景気回復の実感は、いまだ全国津々浦々まで届いてはいない」と述べたように、地方の景気は相変わらず厳しく、デフレからの脱却は道半ばである。消費税増税前の駆け込み需要や五兆円規模の経済対策頼みでは危うい。官僚任せ、官僚のやりたい放題のような成長戦略は早急に練り直すべきである。

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