愛媛新聞 2014年3月25日
「命より大切な会社や仕事などない」―そんな当たり前の認識が、日本の社会に浸透する一歩になればと願う。
自民党のワーキングチームが、過労死や過労自殺を防止する法律の骨格案を示した。
社会から過労死をなくすことを「国の責務」と明確に位置づけ、大綱の策定を義務づける。その上で、実態の調査研究や啓発、相談体制の整備などを対策に挙げ、地方自治体や事業主に対しては対策への協力を努力義務とした。
過労死をなくす重要性を正面から訴える初の法律の意義は、極めて大きい。ただ、骨格案は理念的で、企業への規制や罰則など強制力がなく、実効性には疑問が残る。自民党は、野党が昨年末に国会提出した先行法案と調整の上、今国会での成立を目指すとしており、内容を詰めた上で一刻も早い成立を望みたい。
過労死は、不名誉にも世界に先駆けて日本が生んだ現象・言葉とされる。「KAROSHI」が英語の辞書に載るほどの特殊な状況は国際的に問題視されており、昨年には国連社会権規約委員会からの是正勧告も受けている。
厚生労働省が2012年度に労災認定した「過労死」は123人。過労自殺(未遂を含む)は93人と最多だった。むろん認定は氷山の一角にすぎず、職場の問題に起因する精神疾患の労災認定も最多の475人(前年度比150人増)に上る。現状は、極めて深刻と言わざるを得ない。
第一義的には企業の責任。だが「働かせ方」も人材育成も企業任せで、長時間労働の慣習が根強く、しかも長く働く人ほど評価されやすい―そんな「日本型雇用システム」そのものの問題も大きい。心身をむしばむ働き過ぎの放置はこれ以上許されず、国の責任で最低限のルールを構築し直してもらいたい。
近年は、競争激化で企業が余裕を失い、職場環境も悪化の一途。しわ寄せは若年世代に向かいがちだ。国も昨年ようやく、不当に過酷な労働で若者を使いつぶす「ブラック企業」対策に乗り出したが、悪質な企業は退場に追い込むべきであり、一層強い姿勢が求められよう。
一方で、安倍政権は「雇用の質」の劣化を助長する規制緩和を進める。
長時間働いても残業代などが支払われない「ホワイトカラー・エグゼンプション」は「過労死を招く」と強い反発を浴びながら、最近は「健康維持の措置を講じる」との前提までつけて、導入をもくろむ。解雇しやすいルールへの改変も諦めず、労働者の待遇悪化が懸念されている。
頑張っても報われず、人を使い捨てにする社会に未来はない。次の犠牲を決して出さないために、働き方、働かせ方を考え直す契機としたい。