河北新報 2014年07月11日金曜日
宮城県警佐沼署の32歳男性巡査長が「上司からパワーハラスメントを受けていた」という趣旨のメモを残して自殺した。
現時点で確定的な物言いは控えなければならないが、警察組織の中でパワハラを訴えて自殺者が出た事実は軽くない。
東北では、福島県警捜査2課の52歳男性警視と51歳男性警部が4月に相次いで自殺し、パワハラが背景にあったとして上司の課長が6月末に処分され、更迭されたばかりだ。
2月には秋田県警の交通部長が、長期間日常的に部下にパワハラを繰り返していたとして処分され、依願退職した。この部長が一線署の副署長だった時代にパワハラを受けていた部下の48歳男性警部が自殺していたことも、後に明らかになった。
警察で自殺者が相次ぎ、背景としてパワハラが指摘される事態は、組織としての欠陥を考えないわけにはいかない。警察庁や各県警は単発の出来事と片付けず、異常事態として徹底的に背景を洗い出し、対策と体質改善に取り組む必要がある。
階級社会の典型である警察組織では、職務上の地位や優位性がはっきりしている分、それが決裁などの場面で圧力として行使される機会は他の職場よりも多くなりがちだ。パワハラが起きやすい職場と言える。
福島県警のケースでは、警察庁採用の課長が自殺した警部らが決裁を求めに来ると、他の職員がいる前で「小学生みたいな文章を書くな」「国語を習ったのか」などとののしり続けた。
担当業務が多忙になり、自殺した月の超過勤務が142時間に達するなど他の要因もあったとされるが、あらがいようのない地位の差を背景に人格否定を繰り返されてはたまらない。
警部の自殺を救えなかったとして後を追った警視も含めて、その無念さは計り知れない。
2人の自殺という特異な展開になったことで陰湿なパワハラの実態が明るみに出たが、自殺が1人だったり、それまで至らなかったりする事例は、組織内でうやむやになりやすい。
秋田県警のケースでは、過去に自殺者がいたことは長く公表されていなかった。不祥事を隠す警察組織の悪弊が問題視されている。隠蔽(いんぺい)体質の組織ではパワハラの根絶は望むべくもない。宮城県警の調査も根絶やしに向けて公表前提の徹底解明が求められる。
パワハラ予防には、トップの強い意志、アンケートなどによる実態把握、教育と啓発、相談窓口の設置と充実などが必要とされる。今の警察組織でそれらの対策が十分かどうか、すぐに見直しを進めてほしい。
さらに福島も秋田も上司の処分は戒告や訓戒だったが、それで済む問題なのか。より厳しい処分で明確なメッセージを発することも検討すべきだろう。
パワハラは学校のいじめと同様に社会全体で向き合うべき重い課題だ。社会正義と市民の命を守る組織だからこそ、根絶に向けて毅然(きぜん)たる姿勢を示す責任を警察は負う。