毎日社説: 最低賃金 地域間格差を是正せよ

毎日新聞 2014年07月31日 02時32分

 パートなど非正規雇用の人々に大きな影響を与える最低賃金について、厚生労働省の中央最低賃金審議会小委員会は16円の引き上げを決めた。昨年実績の14円を上回り全国平均で時給780円(目安額)となった。今後は各地の審議会で議論され、10月には都道府県ごとの新たな金額が決まる。正社員との格差だけでなく、年々広がっている地域間格差の是正に取り組むべきだ。

 非正規雇用の人は今や雇用労働者全体の4割近くを占める。消費の拡大や少子化の改善には若年層を中心とした非正規雇用の待遇改善が不可欠だ。以前は最低賃金が生活保護の基準を下回る自治体が多数あり、2007年の最低賃金法改正で改善が図られてきた。北海道や東京など5都道県でまだ生活保護を下回っているが、今回の引き上げでようやく逆転現象が解消されそうだ。

 2年連続で2桁の引き上げではある。だが、消費増税や物価高で働く人の生活は圧迫されている。今春闘では大手企業を中心に大幅賃上げが実現し、非正規雇用との格差も広がっている。安倍晋三首相や各閣僚は春闘ではこぞって賃上げに言及したが、本来は労使間に委ねられるべきだとの批判も強い。一方、最低賃金の改善こそ政府がやるべき仕事であり、政治がリーダーシップを発揮する場面である。田村憲久厚労相は「昨年並みか、それより良い成果が出れば」と語っていたが、安倍首相からは春闘で見せたような意欲は感じられなかった。

 経営者側は「中小企業は経営が改善していない」と反発するが、日本の賃金格差は先進諸国の中でも大きい。経済協力開発機構(OECD)の12年時点での統計によると、フルタイムで働く社員の賃金の平均(中央値)を100とした場合、日本の最低賃金は38しかなく、フランス62、オーストラリア53、英国47に比べ格差が著しいことを示している。10年前は日本より低水準だった韓国は改善に取り組み12年では42になった。日本と同じ38で先進国最低レベルの米国は今年になってオバマ大統領が連邦政府の最低賃金を大幅に引き上げる方針を打ち出し、各州にも波及して改善が図られているという。

 地域間格差も大きい。鳥取や沖縄など最低額の9県は東京より時給で205円低いが、今回示された目安額ではさらに差が広がる。安倍政権は人口減少を食い止め「地方創生」を重要課題として掲げるが、まずは賃金格差の改善に取り組むべきだ。これまで地方の中小企業で働く非正規雇用の人々の声が反映されてきたとは言い難い。地方審議会は働く人が地方から流出しないような賃金水準を目指すべきだ。

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