最低賃金と物価 「暮らしの質」悪化に歯止めを

高知新聞 2014年08月04日

 全国平均で時給16円増―。厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会が、2014年度の地域別最低賃金を780円とする「目安」を答申した。今後、各都道府県の審議会で正式に決まる。

 前年度を上回る上げ幅が示されたことは歓迎できる。だが4月の消費税増税以降、物価上昇率は3%を超えたが、最低賃金は満額上げても2%増程度。つまり、実質的には「賃金低下」に等しい。この現状を、政府や企業は重く受け止め、最大限の引き上げを急いでもらいたい。

 日本では今、最低賃金の持つ意味や影響力が、かつてないほど増している。非正規雇用者は全労働者の4割近くに達し、必然的に最低賃金やその近辺の低賃金で働く人が年々増えている。全企業の0.3%にすぎない大企業の賃上げなどの恩恵は届きにくい。

 インフレを推進し、雇用の質を下げて大企業を優遇する安倍政権の経済政策は、格差を広げ、生活実感を悪化させつつある。最低賃金の引き上げこそ、より多くの人の処遇改善や格差是正に直結する最優先課題であるとの認識を、強く持たねばならない。

 そもそも最低賃金の水準は低い。例えば愛媛は現行666円。目安通り13円引き上げても、フルタイムで働いて10万8640円。安心して生活できる額とは到底言えまい。前政権時代から掲げる「20年までに平均千円」の目標にも、到底届きそうにない。

 最低賃金での収入が、生活保護受給額より低い「逆転現象」の解消に、政府は躍起。だが問題の本質は、まじめに働いても暮らしが成り立たない最低賃金の低さにある。ともに低い生活保護費と比較して、両方を上げ渋る口実に使うことは許されない。

 審議会では経営側が、実際の増加幅が「目安」を下回っても良いとの内容を盛り込むよう求めたという。撤回はされたが、憤りを禁じ得ない。安倍政権は最近急に「地方創生」をうたい始めたが、地方の中小企業も引き上げに踏み切れるような政策配慮と、実効性の担保を強く求めたい。

 先月の国の調査では、勤労者世帯の実収入は6.6%減と9カ月連続減。実質賃金指数は前年6月比3.8%減に及ぶ。子どもの貧困率は12年で16.3%と過去最悪になるなど、暮らしはじりじりと追い詰められている。

 一方、物価は「政権のお墨付き」を得て上がり続け、この夏はチーズやハムなどの食品が一斉に値上げされる。生活に欠かせない電気も、原発事故の責任も取らない電力会社が料金を引き上げ、国民に負担を平然と転嫁している。

 個人の暮らしを踏みつけにした「成長」は続かない。社会の底が抜ける前に、国も企業も考え直してもらいたい。

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