西日本新聞 2014年08月08日
さながら大正時代の過酷な労働現場を描いた「女工哀史」の現代版のようではないか。
牛丼チェーン「すき家」の過重労働問題について、すき家の運営会社ゼンショーホールディングスの第三者委員会が、調査報告書を公表した。非管理職の月平均残業時間が109時間に上るなど、法令違反状況だったとしている。
程度の差はあれ、利益のため従業員に過重労働を強いるような事業所は他にも指摘される。産業界も政府も事態を重く受け止め、その根絶に総力を挙げるべきだ。
それにしても報告書には驚かされる。多くの従業員が24時間連続勤務を経験し、「恒常的に月500時間以上勤務」「2週間家に帰れない」「体重が20キロ減った」など深刻な例もある。防犯上問題とされる深夜1人勤務の激務も横行していた。まさに常軌を逸した劣悪さである。
報告書は事態を組織的な問題だったと指摘する。同感である。経営陣には猛省を促したい。
問題はこんな状態が野放しにされていたことだ。デフレ経済で商品値下げ競争が進み、消費者も安さを求めた。結果として従業員を酷使することでコストを削減するビジネスモデルが一部業界で常態化していたのではないか。
だが、人手不足で局面は変わりつつある。低賃金の非正規労働者らを当て込むビジネスは限界だ。むしろ淘汰(とうた)されて当然だろう。
政府の対応力不足も否めない。
労働基準監督署は昨年度、すき家に対し法令違反を49回も是正勧告したのに、改善は不十分だった。より厳しい対応はできなかったのか。そもそも、法令違反を調査する労働基準監督官は全国で約3千人だ。対象事業所約430万に比べて圧倒的に少ない。
弱い立場にある労働者の命や健康を守るために、法令や制度の実効性をもっと高める必要がある。
先の国会で過労死防止法が成立したのは一歩前進だが、政府は労働時間規制の緩和に動いている。残業代ゼロの長時間労働を助長しないよう慎重を期すべきである。