河北新報 2014年8月20日
東北への立地を決めた企業と地元自治体の両トップが笑顔で握手を交わし、地域の雇用拡大を約束する。こんな光景があったのが少し前だったとは思えない事態だ。
情報サービス業のディオジャパンが7月末で業務を休止。東北各地にある同社関連のコールセンターの閉鎖や事業譲渡、賃金未払いが相次ぎ、解雇通告を受けるなどした従業員の雇用対策が急務になっている。
ディオ社は2000年設立で、松山市に登記上の本店を、東京に本社機能を置く。東北に進出したのは東日本大震災後の11年夏。登米市にコールセンターを設けたのが最初だった。その後は急ピッチで拠点を拡大。開設に関わったコールセンターは東北6県の計17カ所に上る。
代理人の弁護士によると、業務受託が想定通りに伸びず、経営悪化に陥ったという。企業としての見通しの甘さがこうした事態を招いたのはもちろんだが、雇用問題に対して行政側にも当事者意識を強く求めたい。
忘れてはならないのは、国や地元自治体が事業を後押ししたという事実だ。
ディオ社は東北への事業所開設に当たり、国の基金による自治体の緊急雇用創出事業を活用。厚生労働省の調査で受け取った補助金は約43億円に上る。
各県や市町村も誘致に力を注ぎ、進出が決まると大きく宣伝した。宮城県美里町への進出では、昨年11月の立地協定締結式に村井嘉浩知事が同席。本門のり子社長が「震災の被災者の雇用に貢献したかった」と述べたのに対し、当時の佐々木功悦町長(ことし2月で退任)は「被災者に経済力が付いてこそ、本当の生活再建を果たせる」と立地効果をアピールした。
「(給与遅配などが発覚した時点で)県や町はディオ社が今後どうなるかを調査すべきだった」。解雇通告を受けた美里町民がこう憤るのは当然だ。
業務開始から1年を経ていない事業所の従業員については、国による未払い賃金の立て替え制度の対象からも外れるという。二重の苦労を背負うことになるだけに、地元自治体は事業の継承先探しなどに積極的に取り組んでほしい。
企業誘致に対するリスク感覚が適切に働いたかどうかも反省すべきだ。
ディオ社が活用した緊急雇用創出事業で被災者を雇う場合、人件費などを公費で賄えるのは事業所開設から1年の研修期間にとどまる。以降は十分な売上高と給与支払いが必要になる。
震災後のわずかな期間での相次ぐ事業所開設を歓迎するだけで良かったのかどうか。雇用の継続性を疑う余地があったように思えてならない。
東北では震災後、雇用のミスマッチが顕在化した。特に事務系部門の求職者が多い中、コールセンターに過度に期待した面があったのではないだろうか。
企業誘致にも当然、リスクは伴う。当時の認識が十分だったかどうかを綿密に検証することは今後にもつながるはずだ。