東京新聞 2014年12月4日
衆院選でまず問われるのは、くらしに直結する経済政策、アベノミクスの是非である。国民生活は豊かになるか。世代間や都市、地方の格差はどうか。
公示日、各党党首の第一声で訴えの軸となったのは景気や消費税など経済政策であった。安倍晋三首相(自民党総裁)は二年間の経済指標の改善を並べて「アベノミクスは今後も正しい」と強調した。一方、民主党の海江田万里代表は「景気が良くなったのは一握りの人たちの話だ」と述べ、衆院解散はアベノミクスの失敗を隠すためだと対決姿勢をみせた。
◆雇用と賃金に改善大
経済政策には「光」と「陰」はつきものである。恩恵を受ける人があれば、逆に副作用で打撃を受ける人も出る。光が当たる部分をできるかぎり多くするのはもちろんのこと、それでも陰になってしまう部分に対しては相応の手当てがなされなければならないはずだ。功罪を指摘されるアベノミクスの場合はどうか。
首相が言うように雇用が百万人増えたり、失業率は「完全雇用」といわれる水準の3・5%にまで下がった。賃金も大手企業を中心に春闘の賃上げ率は約2・3%と近年まれに見るアップ率を記録した。超円高から円安に転換したことで株価は高騰し、企業業績も輸出関連を中心に好況に沸いたところが多い。
これまで職につけなかった人にとってアベノミクスで「光」が差したことにはなろう。株を持つ人の多くも資産を増やしたに違いないから、そうだろう。
一方で、賃上げする余裕のない中小企業や地方の住民にとっては陰のままだ。円安で原材料の輸入コストが上がり、経営が悪化する中小・零細企業も少なくない。賃上げが実現したとしても、物価の上昇分には追いついていないため家計はまだまだ光が差さない。消費支出は七カ月連続でマイナスを記録したほどだ。
雇用は増えたが、多くは非正規雇用である。それでは薄日が差した程度としかいえまい。首相は円安による中小企業などへの副作用や、都市部と地方の格差の存在を認めて「全国津々浦々にまで景気回復の恩恵が届くようにする」と口にしてきた。しかし、光と陰のコントラストは依然として強いままである。
そもそもアベノミクスは大企業や富裕層の富を増やし、その富の滴が落ちることによって景気回復を図る政策だと指摘されてきた。
◆恩恵及ぶのは一握り
法人税減税など大企業や経営者寄りの政策が目立ち、しかも残業代ゼロや派遣労働の増大・固定化につながる法改正の動きなど、働く人にとって労働環境を厳しくするものも少なくない。
野党は「富める者はますます富む一方で、中間層は細るばかりだ」と批判を強める。シンクタンクの調べでは、一億円以上の金融資産を保有するのは百万世帯に増えたが、預貯金がない世帯は全体の三割に達した。数千万円のフェラーリと二百五十円の格安弁当がともに売れる、金持ちと貧乏人の二つの国が同居するような格差社会である。
アベノミクスは道半ばであり、岐路にあるのは間違いない。
第一の矢の異次元緩和は円安株高を演出したが、輸出が伸びないなど実体経済は期待したほど好転していない。第二の矢の財政出動は資材高騰、人手不足を招いて機能不全となり、財政も一段と傷めた。第三の矢である成長戦略は、農業や医療などの「岩盤規制」を打破するとした規制改革が進まないなど目立った成果はない。
それ以上に問題視されるのは、異次元緩和で日銀が国債を大量に買い込んで金利を抑え込むことで、財政規律が緩まないかということだ。かえって税収を落ち込ませる恐れが強かった消費税再増税の先送りは当然だとしても、安倍政権には歳出削減の努力がみられないのである。財政赤字の削減目標をうやむやにするのであれば、将来世代への借金の安易なつけ回しになりかねない。
◆シルバー民主主義か
毎年一兆円ずつ増え続ける社会保障費の抑制は避けて通れない。負担能力のある人の給付削減など痛みを伴う改革を打ち出せないのでは「シルバー民主主義か」と非難されても仕方あるまい。投票率が高い高齢層と、低い若者層とでは国の予算の受益率で十対一以上の開きがあるといわれている。
年金の将来を考えたとき、現在の高齢者と若者との受給額の格差は想像に難くない。都市部の繁栄と地方の衰退を見るにつけ、地域間格差も明らかだ。声を上げ、賛否の一票を投じることは、それらを埋める第一歩になるはずだ。