中日新聞 就職氷河期 押しつけ就労では困る (6/3)

 中日新聞社説 就職氷河期 押しつけ就労では困る

 
就職氷河期 押しつけ就労では困る
中日新聞 2019年6月3日
 
 「就職氷河期時代」に就職が困難だった世代への就労支援策を政府がまとめた。今も苦境が続く世代だ、支援は必要である。だが、単に人手不足の業種への労働力としか見ていないのではないか。
 
 氷河期世代が就職に苦戦したのは決して自己責任では片付けられない。社会問題が背景にある。
 
 この世代はバブル経済が崩壊した直後の約十年間に高校・大学を卒業した。団塊ジュニア世代も含まれ人口が多く世代全体では約千七百万人いる。今、三十代半ば〜四十代半ばになった。
 
 バブル崩壊後、企業は新卒採用を絞ったため非正規で働く人や就職をあきらめた人がいた。採用試験に落ち続けるなどで心が傷つきひきこもりになった人もいる。
 
 今も非正規雇用は約三百七十万人、無業者は約四十万人いて低収入で家庭が持てず生活に不安を抱えたままの人もいる。新卒時に正社員採用から漏れるとなかなか正社員になれない新卒一括採用と終身雇用の負の影響を受けている。
 
 苦境はまだある。
 
 まもなく親の介護に直面するし独身だと自身の高齢期はひとりで生きねばならない。十分な年金を受け取れず生活保護に頼らざるを得ない人が増えるとみられる。
 
 政府はもっと早い段階で対策を打てなかったのだろうか。
 
 今回、今後三年間で集中的に取り組む支援策をまとめたことは歓迎するが、実効性に疑問がある。
 
 都道府県が経済団体や各業界と連携して採用の促進や処遇改善を後押しするというが採用は企業の判断次第だ。あくまでも働き掛けを行うにすぎない。職業訓練やこの世代を雇用した企業への助成金制度も既に実施しているが、目立った効果はでていない。既存の対策を集めただけでは心もとない。
 
 短期で資格を取得し就労につなげる支援も提言しているが、想定する業種は建設や運輸業だ。人手不足の業界へ就労を誘導し押しつけようとしていないか。
 
 そもそも氷河期世代といっても置かれた状況はさまざまだ。その実態把握なしで対策は進められない。就労や将来の希望を丁寧にくみ取らないと支援はうまくいかない。その上で実効性ある支援をきめ細かくそろえるべきだ。
 
 とはいえ既に中年期を迎えた。非正規でも生活できるような待遇改善は早急に進めねばならない。
 
 企業も人材をコスト削減の対象としか見ないのではなく「人財」として見直し、生かす多様な働き方を模索してほしい。
 

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