前回、ネットバブル崩壊後のIT産業の不況に関して、2001年8月7日の「ニューヨーク通信」を引き合いに出しました。今回は8月23日の「アメリカ経済、曇りのち雨」という通信を、株式バブルをめぐる当時の証言として引用することをお許しください(注は帰国後につけたもの)。
アメリカ経済の雲行きがいよいよあやしくなり、まだ本降りまでは行きませんが、ポツポツ降り出したようです。
今日のニューヨークのニュースは、連邦準備制度理事会(FRB)が景気について悲観的な見方をしていることが連邦公開市場委員会(FOMC)の議事録から明らかになったことを伝えています。
そもそもFRBが、日本のコールレートにあたる政策金利のFF(フェデラルファンド)金利を今年になって7回も下げる(6%から3.5%へ)なんて、景気の先行きをよほど警戒していることの現れです(注1)。
(注1)FF金利はその後も引き下げが続き、12月11日には1.75%になり、2001年中の引き下げは計11回に及んだ。
最大の不安材料は雇用情勢が近年になく悪くなっていることです。人材派遣会社の調査ですでに言われていたことですが、CNNの今日のニュースは、労働省発表をもとに、失業手当を支給される労働者の数は1992年以来最悪になっていると伝えています(これは短期金利が92年以来最低になっていることと符合します)。その結果、失業手当の申請者は新規を除く継続申請者だけで318万人に上っています(注2)。
(注2)米労働省発表の失業率は、8月に前月の4.5%から4.9%に上がり4年ぶりの失業率を記録したあと、9月は4.9%、10月は5.4%、11月は5.7%に跳ね上がった。
消費については長らく楽観的な見方が支配的で、それを裏付けるような指標が発表されてきましたが、この数日の報道は、消費者が慎重になっていることや、消費が鈍化してきていることを伝えています。小売り大手のKマートが最近の決算で赤字に転落したことも、そうした消費不振の現れとみられています。
ハイテク業界はいよいよどん底の感じです。格付け会社のスタンダード・アンド・プアーズ(S&P)から「ジャンク債」のレッテルを貼られたゲートウェイ(パソコン)の株価急落は、あたかもそのことを象徴しているようです。
こういうわけですから、今日はナスダックもダウも下げました。悪い材料ができっていないのでもっと下がるだろうとも言われています(注3)。製造業だけでなく、流通や金融を含めて目白押しの人員削減計画が実行に移されるのはこれからですから、雇用情勢はさらに悪くなることは間違いありません。そうなれば、消費も冷え込むでしょう。
(注3)9月に入ると、株価はダウもナスダックも今年の最安値に近づき、S&P500は約3年ぶりの安値であったと報じられた。秋以降の景気悪化の兆しは、住宅ローン延滞率の上昇や、消費者信頼感指数の低下にも表れている。
一方、日本の株価は目もあてられない状況ですね。連日のようにバブル崩壊後の最安値を更新と報じられていますが、いったいどこまでいったら止まるのでしょうか。完全失業率が男性だけでなく、男女計でも5%を超えることが確実視されているなかで、国民は小泉「改革」の「痛み」にどこまで耐えるのでしょうか。
アメリカ経済が好調なときにも不調だった日本経済ですが、アメリカ経済が雨模様になれば、日本経済は土砂降りになるというシナリオだけは、御免蒙りたいものです。
2001年8月のアメリカ経済は、このようにいつバブル崩壊から大不況に突入してもおかしくない状況にありました。にもかかわらず、当時は一挙にどん底におちることなく、危機の爆発は2007〜08年まで先送りされました。それには、9月11日に勃発したあのテロアタックにともないアメリカが事実上の戦時体制に突入したことが影響しています。くわえて、株価を支え住宅や車の販売を刺激するための超低金利政策が発動され、住宅バブルに火がついたことも無視できません。それにともない膨張したサブプライムローンついては次回取り上げます。