昨日の夕刊各紙は雇用環境が急激に悪化していることを伝えています。そのなかにも出ていますが、厚労省の集計によれば、本年10月から実施済み、または実施予定の非正規労働者の首切り・雇止めは、全国で1415件、8万5012人となっています。うち5万7300人(67%)は派遣労働者です。
住居の状況については、判明した3万5208人のうち、喪失者は2157人(6.1%)でした。判明したのは失職者集計全体の4割にとどまり、残る6割のなかにも失職と同時に住居を失った者が多数いるものと考えられます。
再就職状況については、判明した1万7171人のうち、再就職先のない人は1万5145人(88.2%)でした。これも全体の2割の判明者に関する数字で、残る8割の人を含めれば再就職のない人はこの何倍にも上ると推定されます。
12月23日放送のNHK総合テレビ「視点・論点」(22:50〜23:00)では、反貧困ネットワーク事務局長の湯浅誠氏が「派遣切り」について怒りを込めて語っていました。見逃した方は、ユーチューブで視聴することができます。(以下の引用はこちらから)。
彼や彼女たちは、たんに仕事を失うだけではなく、住居も同時に失い、冬本番を これから迎えるという時期に、路上へと放り出されてしまいます。実家に帰れる 人ばかりではありません。年末年始は新しい仕事につける見込みも薄く、不動産 屋も役所も閉まってしまう。野宿経験のない人たちは、どこで寝ればいいか、ど こで暖をとれるのかもわかりません。派遣切りはその意味で、人の命を危険にさ らす行為だということをわかってもらいたいと思います。
湯浅氏は失業時に生活の支えとなるべき雇用保険の問題にも触れています。さきの厚労省の非正規労働者の集計結果によれば、首切り・雇止め対象者の雇用保険加入状況は、5万6549人(67%)について判明し、うち加入者は5万5980人(判明者の加入割合は99%)となっています。しかし、全国の労働局および公共職業安定所による企業に対する聞き取りという調査方法から考えて、雇用保険の加入状況が不明な者が失職者の33%(2万8463人)に上るというのはおかしなことです。実際にはそのほとんどは未加入者だと考えられます。
湯浅氏の話によれば、失業時の頼みの雇用保険は、たとえば日雇や1か月未満を含むごく短期の有期雇用が広範囲に行われながら、6か月以上の雇用見込みのある者にしか雇用保険を適用しないような仕組みがあって、いま失業者の10人に2人しか受給できていません。
湯浅氏は、社会保障のセーフティネットの整備のための政治の責任について政策転換の必要性を訴えるとともに、経営者の責任に立ち戻って、最後に次のように述べています。
何千万もある自分の役員報酬を削って、せめてこの年末年始だけでも、次の仕事 が見つかるまでの間だけでも、非正規の雇用と住居を守ると宣言する経営者はい ないのでしょうか 好景気のときに溜め込んだ内部留保を一部でも放出しようと 考える経営者はいないのでしょうか。……どの企業も環境保護を訴え、それが企 業の社会的責任だと言っています。環境は大切だけど、人の命はどうでもいいと、 言うんでしょうか。「地球を大切にしています」などといった欺瞞的な広告は即 刻止め、「私たちの企業は非正規労働者の命などなんとも思っていません。そん な私たちですが、よければ商品を買ってください」と正直に言ったらどうでしょ うか。
参考までに、11月30日の「しんぶん赤旗」に出ている、トヨタについて期間工3000人の雇用を維持するために必要な資金と、配当の額とを比較した記事をここに紹介しておきます。
トヨタ自動車の場合、期間工の日給は約1万円。二交代制の手当を含め年収約300万円(残業代を含めない)です。年間90億円あれば3000人の雇用を守ることができます。90億円は株主への08年度の中間配当総額2037億円の5%分にもなりません。
トヨタの発行株式数は30億株超です。1株当たり1円の配当で約30億円。たった配当3円分を雇用に回せば、期間工3000人を減らす必要はありません。
また、豊田章一郎名誉会長と豊田章男副社長だけで1600万株近く保有しています。トヨタの年間配当が一株当たり140円だった2007年度に、2人だけで22億円を超す配当を手にしたことになります。その4年分程度があれば、3000人の雇用は守れます。
トヨタでは、8年間で配当を5倍化。株式保有者の8割がトヨタのグループ企業や信託銀行、生命保険会社など機関投資家です。もうけを労働者に還元し、雇用を守ることこそ優先すべきです。
近年で失業率がもっとも高かったのは2002年で、「労働力調査」の完全失業者は359万人、完全失業率は5.5%(いずれも年間)でした。昨日発表された本年11月の「労働力調査」では、前月から失業者、失業率とも増えたとはいえ、それぞれまだ263万人、3.9%です。多くの経済指標が2002年より急激な生産の落ち込みや有効求人倍率の低下を示していることからみて、2009年には失業者も失業率ももっと大幅に増加するのは必至とみられています。それだけに、就業者と失業者を守るための企業の責任と政府の責任がかつてなく厳しく問われています。