第179回 大学生の自殺問題はもはや放置できません

内閣府が6月8日に発表した2012年版「自殺対策白書」は、近年における若者の自殺の増加を重視して、次のように指摘しています。

「我が国における若い世代の自殺は深刻な状況にあり、15〜39歳の各年代の死因の第1 位は自殺となっている。こうした状況は国際的に見ても深刻であり、15〜34歳の若い世代で死因の第1 位が自殺となっているのは先進7 カ国では日本のみで、その死亡率も他の国に比べて高いものとなっている」。

自殺者総数は1998年から昨年まで14年連続で3万人を超える状態が続いています。1998年に前年の2万4000人台から8000人以上急増して3万人台に突入したことが報じられた頃は、中高年の自殺者の増加が問題になりました。それとの対比でいえば、最近は学生・生徒をはじめとする若者の自殺の増加が目立ちます。先の白書によれば、学生・生徒の自殺者は、1995年から97年は617人で横這いに推移していましたが、1998年に818人を数えるようになりました。その後。2002年にはいったん673人に下がりますが、翌年から顕著な増加傾向を示し、昨年は1029人になり、初めて1000人を上回りました。

大学生に限ってみても、別表に示したように、ここ数年は2008年に500人を大きく超えて、その後も高止まりしています。2006年に自殺対策基本法が成立し、翌年から警察庁の自殺統計が整備され、大学生についても自殺の原因・動機別の数字が示されるようになりました。別表で2007年以降についてその内訳を見てみますと、「就職失敗」による自殺(いわゆる就活自殺)が2007年から2010年の間に3.5倍に増えていることが注目されます。

大学生の「健康問題」に関わる自殺の原因・動機のうちで突出しているのは「うつ病」です。過重労働に起因するストレスで20代の、それも新卒間もない働く若者にうつ病が広がり、過労自殺の多発を招いていることが問題になっていますが、近年の雇用環境の悪化と就職難のなかで、若年労働者だけでなく、学生のあいだにも精神的ストレスが強まり、うつ病などの健康障害が拡がっていることが窺われます。

昨年の就職失敗による自殺とうつ病による自殺は、一昨年に比して減少しています。しかし、他方で進路に関する悩みや、学業不振を苦にした自殺が増えていて、全体としての自殺者数は減っていません。昨年は4人の大学生が「仕事の疲れ」で自殺しています。学生の過労自殺?は2007年が2人、08年が1人、09年と10年はありませんでしたが、11年には4人に増えています。この数字も、大学生の自殺の深刻な状況を物語るものといえます。

大学生の自殺問題に対しては、大学の取り組みは致命的なほどに立ち遅れています。心のケア問題に取り組む大学が増えてきたという報道もありますが、多くはカウンセラーによる精神的ケアに留まっていて、自殺問題を正面から取り上げている大学はほとんどありません。いたずらに騒ぐと「寝た子を起こす」、自殺対策は下手をすると「自殺を誘発する」というのが理由のようですが、実際は、大学当局としては問題を伏せたい、隠したいと考えているのではないかと推察されます。

2008年から2011年の4年間の大学生の自殺者数は警察庁の統計では2106人に上ります。日本の4年制大学は780校(2011年度)です。これは4学年全体でいえば、1校に単純平均で2.7人の自殺者がいることを意味します。実際には大学によって偏りがあると考えられますが、「わが校には自殺者はいない」と胸を張れる大学はないといってよいでしょう。それだけに大学生の自殺防止のための大学の緊急の取り組みが求められています。

       表 大学生の自殺者数の推移と原因・動機別内訳

              学生    うち       大学生の自殺の主な原因・動機別人数 
              生徒    大学生 就職失敗 うつ病 進路の悩み 学業不振
2007年   873      461          13       99         53         55
2008年   972      536      22        111          58         81
2009年   945      528            23        111       60         81
2010年   928      513            46          85           73             79
2011年 1029      529            41          69           83             93

(出所)警察庁「自殺の概要資料」(2012年は「自殺の状況」付録)
(注)この表に挙げたほかに親子関係の悩み、失恋、学友との不和、
孤独感、その他種々の原因・動機がある。

 

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