第64回 このままだと年間給与総額は10兆円の減収に

本ネットのトピックス欄に、今年6月に支払われた給与総額(残業代およびボーナスを含む)が前年に比べて7.1%減ったというというニュースが出ています。これは厚労省の「毎月勤労統計調査」という統計による報道です。

これを年間に換算すればいくらの減収になるか、大雑把な試算をしてみました。推計はつぎのような仮定で行いました。

? ボーナス支給月を除く各月の給与は、1〜3月の前年同月比の平均である−3%(1月2.7%、2月2.4%、3月3.9%の平均)で計算する。

? 6、7、12月のボーナス支給月は、6月の−7.1%を参考値に−7%で計算する。

? 基準となる2008年の1人当たり給与と支給人数は2008年の「毎月勤労統計調査」の各月の確定値を用いる。

これにもとづいて試算すると、2009年の全常用労働者の給与所得の減収は、およそ8兆円(7兆9783億円、昨年の給与総額の4.5%)に上ります(注1)

さきの計算では今年の各月の雇用者数は昨年の各月と同数と仮定しましたが、実際には今年6月の雇用者総数は昨年6月と比べて110万人減っています。これによる労働所得の減少は、昨年の労働者1人当たりの平均年収397万円×110万人で計算すると4兆3699億円に達します。 ただし、これまでのところ昨年秋以降に減少した雇用者(完全失業者+求職断念者)は、圧倒的に非正規労働者が多いので、その人々の平均年収を仮に200万円として計算すると、雇用の減少によって失われる労働所得は200万円×110万人で2兆2000億円になります(注2)。

さきの8兆円にこの2兆円を加えただけでも、昨年に比しての今年の労働所得の減少総額は、およそ10兆円になります。10兆円で思い出すのは、1997年4月からの消費税の引き上げです。このときは3%から5%への消費税率の引き上げと、特別減税の打ち切りや医療保険制度の改悪によって、総額9兆円とも10兆円ともいわれる国民負担増が生じました。

この負担増は、バブル崩壊後の長期不況で体力の弱っていた日本経済に打撃を与え、1997年から1998年にかけて深刻な金融危機と山一、北拓、長銀、日債銀などの経営破綻を招きました。それを考えると、今次の不況で年間10兆円もの労働所得の減少が予想される事態はただごとではありません。「景気の底打ち」や「回復の兆し」などと楽観している場合ではないことは明らかです。

(注1) この試算は2008年の雇用者総数の約8割を(実数では雇用者総数5500万人のうちの常用労働者4500万人)を対象にしたものです。残る2割、約1000万人のうちには、常用のパート・アルバイト以外の非正規労働者、および現場部門長(部長、工場長など)以外の役員が含まれています。こういう人々も現下の大不況の影響を受けて、それぞれに大幅な減収になるであろうと想像されます。しかし、その金額は内訳が不明なのでさしあたり推計のしようがありません。

(注2)  「労働力調査」によれば、今年に入って雇用者が大きく減少し始めたのは3月以降(3月−51万人、4月−72万人、5月−98万人、6月−110万人)です。したがって、年間の雇用者の減少を110万人とする上の計算は、6月の瞬間風速を年間に換算したものであることをご了解ください。

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