9月1日に放送されたMBSの夕方のニュース番組VOICEの特集で、外食チェーン「くらコーポレーション」に採用が決まっていた大学新卒者が「内定辞退」強制で裁判に立ち上がった事件が取り上げられていました。詳しいことは、このブログの「注目のニュース」を見てください。
4月1日の入社式直前の研修合宿で、暗唱した「くら社員三誓」(17行356文字)を35秒以内に言えなければ、入社する意思がないものみなし、辞退届を書かせる。これは研修などといえるものではありません。いじめとしごきをともなった入社直前の不当な「採用取消」です。それも1人だけでなく、20名を超える人たちを辞退に追い込むという許し難い所行です。
失業問題と就職難が深刻化してきた今日の日本では、労働者がものを言えなくなっている以上に、学生は弱い存在になっています。労働基準監督署や職業安定所は、学生たちの就職にかかわる内定取り消し、採用延期、圧迫面接、違法求人、募集内容違反、不当拘束、資格強制、しごき研修、女性差別などに手をこまねいています。
文科省は、「学生の就職・採用活動が公平・公正かつ秩序ある形で行われるよう」大学等に対して通知を出していますが、その内容はいたってお粗末です。「採用内定をめぐるトラブルが生じる恐れ」には言及していますが、内定取消など具体的な問題には一切触れていません。
近年では、「採用選考活動の早期化」が進み、3年次の秋には就職活動が始まるほどになっています。そのために3年生のときに1年間留学して4年次の4月から就職活動を始めても間に合わない。そのために留学を諦めるという問題も起きています。この早期化について、文科省は、「卒業・修了年次に達しない学生に対する実質的な採用選考活動を厳に慎み、採用選考活動は卒業・修了年次の4月以降とする」と指示してはいますが、経済界に対しては特段の策を講じておらず、大学に対する一片の通知に終わっています。
労働行政の面でも、教育行政の面でも、学生はほとんど何の保護も受けず、労働市場における企業の冷酷非情な論理に翻弄されています。私も大学教員として学生たちに何もしてやれないことを歯がゆく思います。
就職活動において企業の人事担当者からどんなに耐え難い仕打ちを受けても、学生たちは、これまで泣き寝入りしてきました。それだけに、採用取消で裁判に立ち上がった学生たちの勇気に拍手を贈ります。