前回、「日経就職ナビ保護者版」に出ている「就活の今と昔」の対照表を掲げておきました。そのなかでこれは違う!と思いことが二つあります。
一つは年間労働時間です。そのナビ情報は、「保護者世代」は2100時間であったが、「お子様たち」は1800時間になっていると言います。これは現実とあまりにかけ離れています。
すでにこの連続講座で何度か触れたように、厚労省「毎月勤労統計調査」によれば、年間労働時間は、最近では1800時間を切るまでになっています。しかし、これはサービス残業を除いたパートタイム労働者を含む男女計の1人当たり平均労働時間です。
またすでに触れたように、総務省の2006年「社会生活基本調査」によれば、男性正社員は、週平均52.5時間、年間ベースで2730時間働いています。だとすれば、大卒の男性正社員を待ち受けているのは、週50時間としても、年間1800時間どころか、2600時間と考えるべきです。
二つ目は雇用の場における性別格差や性差別の問題です。前出のナビ情報は、「保護者の世代」は「男女雇用機会均等法により、総合職での女子学生の採用が増え始め」たばかりだったが、「お子様たち」は「男女差別禁止」の職場に入るかのように言っています。
「保護者の世代」は、いま21〜22歳の学生の親ということですから、50歳前後と想定されています。「男女雇用機会均等法」が制定されたのは1985年で、親たちが就職して2〜3年経ったころですが、最初は努力義務に過ぎず、1997年の改正(99年施行)と2006年の改正(07年施行)を経て、法律の上では雇用の分野における男女差別の禁止がようやく明確になりました。
しかし、これによって、募集、採用、配置、昇進、教育訓練、福利厚生、定年、退職、解雇において、女性差別がなくなったわけではありません。いまでも女子学生はながらく女性職とされてきた「一般職」に採用され、「総合職」は女性であるといういわれのない理由で特別に狭き門となっています。総合職の募集と採用が優先される結果、女性の「内々定」が出る時期は男性よりかなり遅いと言えます。総合職が20万5000円、一般職が17万5000円という初任給の違いも、賃金の性別格差に繋がっています。
ゼミの卒業生と飲み会で会うと、男性たちはたいてい社名入りの名刺をくれますが、女性たちはほとんど名刺をもっていません。女性は男性に比べて昇給カーブが緩やかで、管理職への昇進の可能性も低いために、勤め続けるほど、年収の性別格差は大きくなる傾向があります。
第54回で取り上げた、国税庁の2009年分「民間給与実態統計調査結果」によると、平均賃金(年額)は男性が532万5000円、女性が235万6000円でした。この差の大きさは、男性に比べて、女性は勤続年数が短く、パート比率が高いという事情ともども、雇用の分野における男女差別の根強い存在を度外視しては、説明できません。