第165回 国家公務員はこの10年、年間賃金が平均100万円も下がったうえにさらに2年で100万円年収が減ります。

このたび『世界』編集部に頼まれてその4月号(3月8日刊行)に国家公務員の大幅給与削減問題について寄稿しました。

ネットを見ると、国家公務員高賃金論が怨嗟のように渦巻いています。それほど高賃金論が広まっているのに、「国家公務員賃金の推移」についての信頼できる図表はネットには見当たりません。人事院の資料が最も正確ですが、それにも見たい時系列データは出ていません。国家公務員の平均年間給与この10年間にどれほど下がったかを確認することさえ簡単にはできないのです。

今回の民自公合意(自公案の民による丸のみ)どおり国会で決まれば、国家公務員は、2011年人勧の遡及分(△0.23%)と、12年度、13年度の7.8%引き下げによって、2年間で平均100万円近い減収を強いられます。

ではこれまでどうなってきたか。それを確認するために苦労して見つけたのは、人数が最も多い行政職俸給表(一)適用者のモデル給与例です。

                     2001年      2010年     減少額  
25歳(係員、25歳、独身)   315万8000円     281万7000円  △34万1000円
30歳(係員、配偶者)       405万3000円  357万7000円  △47万6000円
35歳(係長、配偶者、子1人) 552万3000円  455万8000円  △96万5000円
40歳(係長、配偶者、子2人)  617万8000円  513万3000円  △104万5000円
*給与は両年とも人勧実施後の年間給与

40歳(4人家族)の係長の例では、この10年ほどで年収が100万円以上減っています。平均年齢は41〜42歳ですから、行政職(一)の国公労働者は全体の平均でもこの間100万円以上減っていることになります。これほど下がっているというのは私も知りませんでした。これには、この間にボーナスが4.7ヵ月から3.95ヵ月に下がったことと、人勧の引き下げ率が若年者では低く、中高年では高いことに関係しています。

世間で国家公務員の賃金は民間よりかなり高いと思われている理由の一つは、誤った比較の仕方にあります。官民の給与の比較は、職階、勤務地域、学歴、年齢などを同じくする者同士で行われなければなりませんが、公務員の賃金は高いという議論は、民間の非正規労働者や中小企業労働者の女性労働者を含む賃金の実感や数字をもとになされています。民間では賃金の性別および規模別格差がきわめて大きい点も注意を要します。

総務省「国家公務員給与等実態調査」と厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を用いて、大卒について、国公(正職員)を民間の大企業・男性(正社員)と比べると、2010年は、国公38万1000円、民間39万5000円で、民間大企業のほうが1万円以上高いことがわかります。

ここで注意すべきは、年齢と勤続年数です。2010年の数字で見ると、平均年齢は国公41.9歳、民間41歳、平均勤続年数は国公20.5年、民間12.5年です。もし民間大企業で40歳、勤続20.5年の労働者を抽出して、国公行政職(一)の平均と比較すると、国公のほうが民間より賃金が低いことがよりはっきりします。

平均年齢がほとんど違わないのに、平均勤続年数に8年の開きがあるのは、国公のほうが民間より雇用が安定していることの表れです。勤続年数が長い分だけ、退職金も国公のほうが高いはずです。しかし、だからといって、国公の勤続年数を短くしろ、退職金を減らせと主張するのは間違っています。今回の7.8%(人勧遡及分を含めると8%)
の削減にかぎらず、国家公務員の賃金切り下げは、必ずあれこれの行政法人や地方公務員だけでなく、民間労働者に波及せずにはおきません。

人事院の存在がどうなるかは、国家公務員へのスト権付与問題との絡みで不透明ですが、人事院とその勧告の機能が残るとしても、準拠すべき民間が一段と下がる可能性があるために、2014年度以降もとのレベルに戻るとはかぎりません。逆にスト権が付与されたとしたら(その可能性は低いにせよ)、スト権のある民間も長らくストができないでいる現状を考えると、今回の臨時特例法による2年間の落ち込みはいったん回復されたとしても、長期的には民間と競うように際限なく引き下げられていく恐れがあります。

国家公務員の定員や給与問題に疎い私の心配が見当外れの杞憂にすぎないことを願っています。

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