第32回 集中講義? やってきた80年来の世界恐慌

金融危機や生産過剰によって経済が一挙に危機的状況に陥る現象を恐慌と言います。最近のアメリカや日本の経済は、まさしく危機的状態にあるという点で、不況や不景気というよりは恐慌というほうがぴったりします。そういうなかでだらだらとこの講義を続けていると、読者から「悠長に働き方を論じているときか」としかられそうです。そこで、しばらくのあいだ、集中講義で風雲急を告げる経済の現況について話をします。
 
今回のアメリカにおける金融危機の引き金は、昨年来の住宅バブルの崩壊でした。わたしたちは今年9月に起きた証券大手のリーマン・ブラザーズ社の経営破綻とその後の株価の大暴落によって、金融危機の影響がただごとでないことを知らされました。金融大手のシティグループも、5万人を超える人員削減の発表にとどまらず、身売りや一部の事業売却などが取りざたされています。金融機関で唯一黒字を出してきたゴールドマン・サックス社も、12月16日に発表された第4四半期決算で上場以来初の赤字に転落しました。

今では金融危機が実体経済に波及し、失業者が急増しています。労働省が12月5日に発表した11月の雇用統計によると、失業率は15年ぶりの高水準となる6.7%に悪化し、雇用者数は34年ぶりの大幅減となりました。個人消費も冷え込み、商務省が11月25日に発表した今年第3四半期(7月〜9月)の耐久消費財支出はマイナス15.2%と、1987年初め以来の大幅な落ち込みを記録しました。

製造業でとくに深刻なのは、自動車産業です。GM、フォード、クライスラーのビッグスリーは、軒並みかつてなく深刻な販売不振に陥り、GMの11月の国内販売台数は、前年同月比47%減の17万台でした。今では自動車会社は金融機関と同様に、政府支援なしには存続さえできない事態に追い込まれています。

バブル崩壊の震源地である住宅業界は惨憺たる状況です。商務省が12月16日発表した11月の住宅着工数は、統計を開始した1959年以来の過去最低を更新しました。マイナスは5カ月連続で、前年同月比では47%もの減少になっています。住宅市場の悪化は今後もしばらくは続くものと予想されます。

これらの指標はアメリカ経済が過去数十年来の記録的な落ち込みに直面していることを示しています。金融危機は1930年代の大恐慌以来だと言われています。次回は日本の経済危機について考えるためにも、アメリカがなぜこれほどひどいことになったのか、考えてみたいと思います。

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