安倍内閣は、9月29日、臨時国会冒頭の所信表明演説で、地方の創生と女性の活躍を経済成長の原動力とし、合わせて原発再稼働を推進することを表明しました。原発再稼働についても疑問ですが、ここでは「女性の活躍」戦略をめぐる四つの疑問について考えてみましょう。
1)なぜいま急に「女性の活躍」を言い出したのでしょうか?
それはほかでもありません。日本が女性の社会的地位が著しく低い国であることが世界に知れ渡り、そのことが国際政治の舞台において日本の恥になっているからです。2013年の「世界経済フォーラム」の発表によれば、経済活動、教育、健康、政治の4分野の総合評価における男女平等指数ランキングで、日本は136か国中なんと105位でした。安倍首相は7月13日に東京で開いたお手製の「国際女性ビジネス会議」で講演し、「日本が発信源となり、女性が輝く地球を実現していきたい。日本が世界の女性の元気をリードしたい」と訴えたそうです。「女性が輝く地球」といい、「女性が輝く日本」といい、なんという空々しいスローガンでしょう。
2)「女性の活躍」を推進することが経済成長の原動力なのでしょうか?
安倍内閣は、過労死を増やす恐れのある残業代ゼロ法案も成長戦略の柱だと強弁しています。それと同じ意味で、女性の活躍も強引に成長戦略に結びつけているとも言えます。しかし、「女性の活躍」を「女性労働力の活用」と言い直せば、「企業が世界で一番活動しやすい国」を目指す安倍内閣の本心が透けて見えます。内閣府の2011年版「男女共同参画白書」によると、日本の女性の25〜54歳の就業率は、経済協力開発機構(OECD)加盟30か国中22位です。これをもっと高めて、労働力不足に備えて女性を安価な労働力として活用していく戦略が「女性の活躍」戦略の真の狙いというべきです。安倍内閣が「保育所待機児童解消加速化」を打ち出しているのも、子どもを持つ女性を労働力として活用する条件を整備するためだと考えられます。
3)安倍内閣は本気で「女性の活躍」を推進しようとしているのでしょうか?
政府は、<女性の活躍「見える化」サイト>を設け、そこに上場企業の管理職、役員、育休取得者数などを「公表」していると言います。しかし、いまのところ、上場企業の3割が公表されているにすぎません。それも項目によっては空白が多く、示されている数字も信憑性が疑わしものがあります。有価証券報告書に役員の女性比率の記載を義務付けるそうですが、「向こう10年間に役員の女性比率を最低30%以上にする」といった強制力をもつ立法措置を講じない限り、改善は期待できそうにありません。なにしろ、現状では上場企業3608社の役員中の女性の割合は、100人に1人、わずか1%にすぎないのですから。
4)なぜ男性の長時間労働が女性の活躍を妨げていると言わないのでしょうか?
総務省の最近の「社会生活基本調査」によれば、男性正社員は、週平均53時間働いています。男性正社員の4人に1人は週60時間以上働き、月当たりでは過労死ラインの80時間時間以上働いているというデータもあります。これだけ長時間働く男性は、育児や介護を含む家事労働に携わることはできません。となると家事労働の負担はすべて女性の肩にかかり、女性は結婚や妊娠や出産を機にいったん辞めて再び働く場合には、パートタイム労働者として働くしかない状態に置かれています。近年は男性並みに働く女性もすこしずつ増えていますが、それは結婚をしないか、子どもを持たないという働き方を選択せざるをえない女性が増えていることを意味しています。こういう大状況に手をつけない「女性労働力の活用」戦略は、結果的には「少子化推進」戦略になってしまい、長期的な労働力不足を促進する恐れがあります。
「女性の活躍」推進をいうなら男性の長時間労働を助長する残業代ゼロ法案はただちに撤回すべきです。