第297回 公共部門の雇用に規範性を取り戻し、官民のワーキングプアをなくそう

11月2日、エルおおさか(府立労働センター)で、「なくそう!官製ワーキングプア 大阪集会」が開催され、会場を埋める180名が参加しました。私は午後の全体集会に出て、終わり近くに簡単なコメントをする役割を振り当てられました。

どの報告も有益で勉強になりましたが、私はとくに西谷敏先生の「“無法地帯”の公務非正規労働者」と題したミニ講演が参考になりました。それに触発されて、コメントでは私は公共性の本質的要素の一つである「規範性」について話しました。この場合の「規範」は守るべき法やルールや基準を意味します。したがって、公共部門から規範性が失われると、公務・公共の空間はたちまち法やルールや基準がない(あってもないに等しい)「無法地帯」と化してしまいます。

配付資料のなかに、吹田市で在宅高齢者や障害者に対する「デイサービス」の生活指導員として20年以上にわたって勤務してきた非常勤職員が雇い止めにされた事件の裁判で公正判決を求める要請書がありました。そのなかに、「このような雇い止めは、民間ではとうてい考えられない行為……です」という表現が目に止まりました。これは自治体の公務労働がいまでは規範性を失い「無法地帯化」していることを示しています。本来なら、ここは、「たとえ民間では罷り通っても、自治体ではとうてい許されない行為です」というべきところです。

どうしてこのような転倒が生じたのでしょうか。以前から、公共部門にも非正規労働者がいましたが、「雇用形態の多様化」の名のもとに雇用の非正規化・外部化が急拡大したのは民間のほうが先でした。しかし、いまでは、その差はずいぶん縮まり、地方公務員の場合、民間より非正規率が高い自治体さえあります。

西谷講演でも触れられた総務省の資料によれば、2012年現在の全地方公共団体の「臨時・非常勤職員」の総数は約60万人で、内訳は特別職23万人、一般職13万人、臨時職24万人となっています。4年前と比較すると、驚くことに非正規職員が10万人増加した反面、正規職員は13万人も減少しているのです。大阪労連の調査によれば、大阪府下自治体の非正規雇用比率は2006年から2014年の間に、20.5%から32.0%に高まっています。2014年現在では非正規率が40%を超える自治体が18(13市5町)、50%を超える自治体が4(1市3町)あります。

部面によっては、雇用の破壊とワーキングプアの増加は、民間企業よりも、国や自治体のほうがひどいという状況が生まれています。ここにはまともな雇用をまもるという点での自治体における雇用の規範性はありません。大阪府下の自治体の臨時職員については、最低時間給は、地域最低賃金(2014年調査時838円)に張り付いています。地域最賃の基準をなんとかクリアしているからといって、ひどく低い賃金であることにはかわりがなく、まともな賃金を払っているとは言えません。自治体の業務が民間委託される場合は、受託事業者が労働者を最低賃金以下で違法に働かせることも起きています。

いまでは国も地方も、まともな雇用を維持するという点でも、ワーキングプアを生まないという点でも、公務労働の規範性はすっかり崩れて、無法状態になっています。先月出た拙著『雇用身分社会』(岩波新書)の帯には、「労働条件の底が抜けた!?」というコピーがあります。その第6章「政府は貧困の改善を怠った」には、雇用の身分化をすすめ、労働条件の最低基準に大きな穴を空けてきたのは、経済界である以上に、政府であると書きました。

海外から襲いかかるグローバル化の大波であれ、国内のブラック企業による労働者酷使の嵐であれ、防波堤の役割を果たすべきは、政府の雇用・労働政策であるはずです。にもかかわらず、この20〜30年、政府は雇用・労働分野の規制緩和を強引に押し進め、政府が守るべき雇用と労働のルールや基準をかなぐり捨て、公務領域を非正規雇用と貧困拡大の最前線に変えてきました。

この状態を放置しておくと日本の社会はいよいよ持続できなくなります。いま取り戻すべきは、まともな雇用・労働政策です。そのためにも、雇用と貧困を改善するまともな政府の実現が急がれます。それゆえに、「なくそう官製ワーキングプア」の運動は、官民を問わずまともな雇用を実現し、ワーキングプアをなくす運動でもあります。
 

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