横断幕は“FIGHT FOR $15 AND A UNION” (15ドルを求めて団結して闘おう)
アメリカ大統領選挙の予備選挙が民主、共和の二大政党で始まっています。本年7月の両党の全国大会でそれぞれの最終候補が決定され、11月8日に一般有権者による本選挙があります。そして来年1月20日に新大統領の就任式が行われる予定です。
この2月1日にアイオワ州で行われた最初の予備選挙では、民主党はクリントン前国務長官(68)が49.8%で辛勝したものの、対抗馬のサンダース上院議員(74)の49.6%をわずか0.2パーセント上回ったにすぎない大接戦でした。
サンダース候補の公約−−全国最低賃金15ドル(1ドル=100円とすれば1500円)への引き上げ、公立大学の授業料無料化、全国一律の公的医療保険制度の創設、全労働者の病欠有給化、金融業界規制の強化、政治資金規制の厳格化、温暖化対策−−のうち、とくに若者から支持されているのは、最賃15ドルの公約です。17歳から29歳の民主党支持の若者の84%はサンダース候補に投じたという報道もあります。
サンダースがクリントンに対抗して大統領選に出馬表明をしたのは、2015年5月1日でした。そのころ、アメリカでは、現行の時給7.25ドルの最低賃金を15ドルに引き上げよ、という運動が全米的な広がりを見せるようになっていました。
ガーディアン紙によると、2015年4月15日、マクドナルドをはじめとするファストフード店や流通・サービス業界などの低賃金労働者たちが“Fight for $15”を合い言葉にした最低賃金(時給)15ドルを求める抗議活動を展開しました。これには、大手労組「国際サービス従業員労働組合(SEIU)」の大規模な資金援助を得て、全米200以上の都市で6万人以上が参加したと報じられています。この運動は世界的に取り組まれ、イギリス、ブラジル、ニュージーランドなどでも同様の抗議活動があったようです。毎日新聞によれば、日本でも24都道府県30都市で、アルバイトの若者らが「最低時給1500円」を求める活動を行いました
ロイター通信によると、5月20日には、マクドナルドの店舗従業員ら数千人が同社の株主総会を翌日に控えて、イリノイ州オークブルック(シカゴ郊外)の本社前で最低時給15ドルなどの要求を掲げ2日間のデモ活動を開始し、大きく報道されました。
11月10日には、アメリカ政府と連邦議会に最低賃金15ドルへの引き上げを求めて、ファストフード業の労働者などの低賃金労働者らが全米270都市で、ストライキやデモなどを行いました。ニューヨークタイムズ紙によると、共和・民主両党に対する2016年の大統領選挙に向けた行動や集会もありました。
ニューヨークタイムズは、2015年12月26日の論説で、カルフォルニア州、ニュヨーク州、オレゴン州、ワシントンD.Cを含む、5つの州と9つの都市が最低賃金を段階的に15ドルに引き上げようとしていることに触れて、「早晩、アメリカ議会は適正な全米最低賃金を設定しなければならない。もし遠からずそうなるとすれば、新しい最低賃金は15ドルであるべきだ」として、最賃15ドル運動に支持を表明した。
カリフォルニア州の最低賃金は現在、全米最賃より1.75ドル高い9ドルです これをさらに大幅に引き上げようと、同州のロサンゼルス市ではすでにガルセッティ市長が、市の最低賃金を2020年までに15ドルに引き上げる条例に署名しています。同州のサンフランシスコ市とワシントン州のシアトル市も2018年までに15ドルに引き上げることになっています。
先に触れた本年2月1日のアイオワ州の予備選挙において「最低賃金15ドル」を最大の政策に掲げたサンダースがクリントンと互角の闘いをするまで支持を伸ばしたのは、上に見たような最賃運動の大きな盛り上がりを反映したものと言えます。
いうまでもなく、この背景にはアメリカにおける格差と貧困の深刻な広がりがあります。労働統計局のデータよれば、2014年現在、16歳以上の時給労働者は7700万人を数え、全労働者の58.7%を占めています。うち現行の最低賃金(7.25ドル)以下の労働者は3.9%(300万人)います。19歳から24歳では9.4%、16歳から19歳では15.3%が最賃かそれ以下で働いています。Fortune誌のネット情報には、時給15ドル以下の労働者はアメリカの全労働者の42%を占め、女性では48%、アフリカ系では54%、ヒスパニック系では60%に上るという記事も出ています。
アイオワ予備選のあとの民主党の大統領候補をめぐる支持率調査では、サンダース支持が一段と広がっているという情報もあります。クリントンはもちろん、共和党の候補も最賃引き上げ運動を無視できなくなっています。低賃金時給労働者を最賃引き上げ運動は、大統領選挙をにらんで勢いを増していくものと予想されます。