第313回 最低賃金に強くなり、あなたを守り、みんなの暮らしをよくしよう!

最低賃金は法律にもとづいて決定される賃金の最低額(1時間の賃金=時給)です。略して「最賃」といいます。最低賃金制度の下では使用者は労働者に国が定めた最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。最賃を下回る賃金しか支払わなかった場合には、それが労使の合意に基づくものであっても無効とされ、最賃との差額を支払わなくてはなりません。使用者が最賃より低い賃金で労働者を働かせると違法となり、罰則(50万以下の罰金)が科せられます。あなたの賃金をチェックし、時給(月給なら月々決まって支払われる賃金÷1ヵ月の所定労働時間)が最賃を下回る場合は、労基署にその事実を申告(通報)してください。

最低賃金法は、「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」(同法第一条)と規定しています。最賃制は、生活保護制度とともに、憲法25条に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と謳われている生存権を保障する制度です。

最賃制が機能するには、賃金の最低額を定めるだけでは不十分です。最賃の基準となる最低生活費は、生活様式の変化や物価の動向によって上昇する傾向があります。それゆえに最賃制は、最低生活費の変化を考慮して賃金の最低額を年々引き上げる措置をともなって、はじめて有効に機能します。

日本では、厚生労働相の諮問機関である「中央最低賃金審議会」が、政府の政治的判断を受けて、地域最低賃金(時給)の全国平均(過重平均)をどれほど引き上げるかを答申します。これを受けて、都道府県の最低賃金審議会が各地域の最低賃金を、たとえば東京907円、大阪858円、愛知820円、北海道764円、沖縄693円(16年8月現在)などと決めます。

最賃は、労働組合と経営者の交渉によって決まる賃金ではありません。最賃はパートタイム労働者の時給相場に左右される面がありますが、労働市場の需給関係によって自然に決まるというものでもありません。最賃は、資本主義経済においてはめずらしく、政治的に決まる賃金なのです。

政府が現在約800円(細かくいうと798円)の全国平均を50円(6.3%)上げると言いさえすれば、850円になるのが最賃です。毎年、これと同じ比率で上げれば、4年後には全国平均は1000円になります。しかし、安倍内閣は「一億総活躍プラン」にそって最賃を年率3%引き上るように指示し、それを受けて、7月28日、中央最低賃金審議会は全国平均を24円(昨年は18円)引き上げることを決めました。来年度以降も同様に引き上げるかは不確かですが、たとえ実行されても年率3%の引き上げでは、全国平均が1000円になるのは8年先です。アメリカの15ドル運動の影響を受けて、日本でも時給1500円の要求が広がっています。3%ではその実現は22年先ですが、安倍内閣は1000円から先のことは何も言っていません。

最賃制があり、賃金の最低額が引き上げられると、いくぶんなりとも貧困と格差を改善し、生活水準の底上げを可能にします。また全体の賃金水準を引き上げて個人消費を拡大する効果もあります。

しかし、企業は賃金をそれを下回れば違法となる最賃レベルまで引き下げようとします。そのためにパートタイム労働者だけでなく、初任給レベルの若年正社員についても、時給はぴったり最賃か、最賃に限りなく近いレベルに貼り付けられる傾向があります。

また、たいていの国では最低賃金は全国一律ですが、日本では地域別最低賃金になっていることも問題です。たとえば、2016年8月1日現在、ワタミ(飲食)の「清掃・仕込みスタッフ」の時給は大阪では858円、京都では807円となっています。これはそれぞれの地域最賃と同額です。

最賃は国が定める賃金でありながら、地域間で格差があることも問題です。東京と沖縄の差は、2005年度から2015年度のあいだ106円から214円に拡がっています。最賃が貧困と格差を是正する役割があるとするなら、最賃は全国一律に引き上げられるべきです。これには法改正を要しますが、全国一律最賃制の実現を粘り強く要求していくべきです。

「維新の会」は、12年12月の総選挙に際し、最賃制の「廃止」を打ち出したことがあります。最賃制をなくせば雇用が増えるというのです。たとえば、最賃が850円なら10人しか雇えない企業でも、最賃制が廃止され時給が600円に下がれば、14人雇えるようになると言おうとしたのでしょう。しかし、600円では最低生活さえできないことは無視されています。最賃制がなくなれば、時給が500円、さらには400円に引き下げられる恐れがあることも考慮されていません。あまりの暴論で有権者の不評を買ったためにすぐに引っ込められましたが、こういう乱暴な最賃無用論は労働経済学者のあいだにもあります。

日本では非正規労働者が全労働者の4割を占めるまでなり、低賃金労働者の貧困がかつてなく深刻な問題になっています。それだけに最低賃金の大幅な引き上げが差し迫った重要な課題になっています。

*最低賃金の仕組みや、時給計算の仕方については厚生労働省のネットパンフ「必ずチェック 最低賃金(http://pc.saiteichingin.info/)を見てください。

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