かわちの自営業者
はじめに インボイス制度スタートを前に
日増しにインボイス制度の中止を求める声が高まっています。税理士の中にも、「インボイス制度反対」を掲げ、行動を起こしている人々がいます。
同じ士業である社会保険労務士としても、「インボイス反対」の意志は示したいものです。今年になって、「インボイスの番号を知らせて」「インボイスは取得するべきですか」などの顧客からの声に対し、「慌てることはない」「中止になるかもしれないので」と答えてきましたが、いよいよ期限が迫ってきたした。
インボイス制度と消費税増税に反対することは、個人事業主・業者団体のみならず労働者、労働組合の課題でもあると思います。
1 インボイス(適格請求書)制度の本質
「令和元年10月より消費税の軽減税率が導入され、仕入税額の中に8%のものと10%のものが混在するようになりました。正しい消費税の納税額を算出するために、商品ごとの価格と税率が記載された書類を保存することになったのです。」よく耳にする説明です。
事実はこうでしょう。「消費税10%増税反対の声を抑えるため、生活必需品は8%に据え置かれました。このことでインボイス制度実現への道筋がつき、①ヨーロッパの付加価値税のような高い税率を展望でき、②免税業者の「益税」問題を解決できることになりました。」
加えて、③マスコミ(大新聞と系列テレビ局)は、新聞の軽減税率(8%)と引き換えに政権への忖度を強め、「インボイスの問題点」を指摘する報道を「自粛」しています。
とんだ一石三鳥をくらったのは国民全体ですが、とりわけ免税事業者は岐路に立たされました。「免税事業者のままで取引から排除されるか、課税事業者になって消費税を負担するか、(もしくは事業を廃業するか)」。悪魔の選択(三択)に直面しています。
2 仕入税額控除方式の問題点
インボイスがなければ本当に正しい消費税の納税額は算出されないのでしょうか。
筆者はここ数年会計ソフトを使って記帳していますが、「消費税が正しく計算できていない」などと考えたことはありません。軽減税率対象品目さえ知っていれば問題ないでしょう。
日本の消費税は「前段階税額控除方式」、「帳簿方式」の間接税として、1989年に導入されました。
「仕入税額控除方式」は、売上にかかる消費税から仕入れ・経費にかかる消費税を差し引き(帳簿上で計算)し、申告・納税するものです。
ところが、消費税における「仕入税額控除」は、仕入れ・経費に大きな割合を占める人件費(賃金)が対象とならないため、大企業ほど人件費を外注費(下請業者・派遣労働者)に置き換えようとします。下表は労働力を外注化することで、いかに利益が上がるかを示しています。消費税がリストラを促進し、「労働者(ヒト)を外注(モノ)に変える」ゆえんです。
A社(社員だけ) | B社(外注または派遣だけ) | |
売 上 | 5000億円 ① | 5000億円 ① |
仕入れ・経費 | 4500億円 | 4500億円 |
うち賃金または外注費 | 2000億円(賃金) | 2000億円(外注費) |
仕入れ税額控除 | 2500億円 ② | 4500億円 ② |
利益(消費税納税前) | 500億円 | 500億円 |
消費税額(本則計算) | ①×10%-②×10%=250億円 | ①×10%-②×10%=50億円 |
実際の利益 | 250億円 | 450億円 |
ちなみに筆者は、社会保険労務士がよく使う「ヒト、モノ、カネのうち、ヒトに関する専門家です」という言い回しに違和感を持っています。人間を物品やお金と同列に扱うべきではありません。人間(労働者)あってこその企業ではないでしょうか。
また、「ヒト」は生物学の用語であり、人事労務の分野であえて使う必要はないでしょう。
3 こんなにある消費税の「悪名」
「悪名」と言っても、「今東光(筆者の出身高校OB)、八尾の朝吉、勝新太郎」ではありません。まさに弱い者いじめの悪名が並びます。
①「逆進的な不公平税制」
赤ちゃんからお年寄り、障害のある人までみんなが負担する「水平的公平」、大富豪から生活保護受給者まで誰もが負担する「垂直的公平」を一挙に実現
②「くらし・営業破壊税」
景気の悪化・低迷をもたらし、消費税を価格に転嫁できない中小業者は「自腹」を切ることに
③「輸出大企業優遇税制」
輸出大企業は「輸出戻し税」で納税どころか、還付金(実質補助金)を毎年受ける
④「大企業のリストラ推進税制」
すでにのべたとおりです。
⑤「滞納を招く欠陥税制」
「預り金」だから納税できるはず… 転嫁できていなくても?滞納が増えるはず
⑥「戦争税」
戦費調達税(ドイツ、1916年)、「一般消費税(立案)」(日本、1936年)、「軍事費増大とセットでさらなる消費税増税」(日本、近未来)
4 消費税の変遷―小さく産んで大きく育てる
「公約違反」の消費税導入のため、竹下内閣は「中小業者をなだめる3点セット」を盛り込みました。その最大の目玉だった「免税点」が「インボイス制度」によって崩壊します。
小さく産まれた消費税が大きく育ってしまったのです。
税率 | 3%→5%→8%→10%(軽減8%) |
免税点 | 3000万円→1000万円 |
簡易課税 | 5億円→4億円→2億円→5千万円 |
みなし仕入れ率 | 90%・80%→(+70%・60%)→(+50%)→(+40%) |
限界控除 | 6000万円→5000万円→廃止 |
5 「名ばかり事業主」にもインボイス制度の魔の手が
コロナ禍が浮かび上がらせた「名ばかり事業主」問題。フリーランス・名ばかり事業主にもインボイスの悪魔の選択(三択)が迫っています。
急増しているウーバー配達員にとって確定申告は大きな関心事となっていますが、インボイス制度の影響で、ウーバー社がいつ配達員の報酬から消費税額を減額するとも限りません。
労働組合の中でも、建設労働者・職人が結集する全建総連はインボイス反対・中止に全力を挙げています。労働者・労働組合もインボイス制度=消費税増税を「自分事」と捉えることが大切だと思います。
補論 「消費税増税反対?減税・廃止?」
「軍事費増大のための消費税増税反対」のスローガンはまったくそのとおりだと思います。しかし、消費税導入後の経過は、いくら景気が悪化しようが、いくつ内閣が倒れようとも消費税増税に突き進んできたことを示しています。インボイス・消費税増税に反対することは「不公平な税制」をただすことにつながります。ならば、スローガンは「消費税減税」、気持ちは「消費税廃止」くらいがちょうどいいのではないでしょうか。
(参考文献・全国商工団体連合会「自主申告パンフ」2023年版)