電通新入社員自殺 繰り返された悲劇 長時間労働是正、道半ば

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 広告大手代理店の電通に勤めていた新入社員の高橋まつりさん=当時(24)=が過労自殺したとして、労災が認定された。電通では一九九一年にも、入社二年目の若手社員が過労自殺し、遺族が起こした訴訟は過労死の企業責任の原点となった。長時間労働の是正が叫ばれる中、それに逆行するように、高橋さんの残業時間は月八十時間超の過労死ラインをはるかに超えていた。専門家は「企業の脱長時間労働への取り組みは道半ばだ」と語る。 (中沢誠)

 「会社は過労で社員が心身の健康を損なわないようにする責任がある」。九一年に電通で起きた過労自殺をめぐる二〇〇〇年の最高裁判決はこう指摘し、電通の責任を認めた。過労自殺に対する会社の責任を認める司法判断の基準となった。

 その電通で、悲劇は繰り返された。昨年四月に入社した高橋さんは、本採用となった十月以降、業務が増加。月の残業時間は最長で百五時間に達し、十二月に自ら命を絶った。高橋さんが書き込んでいた会員交流サイト(SNS)では、上司からパワハラとも取れる発言を受けていたことも明かしている。

 国内では二〇〇〇年代に入って、過労自殺や過労うつは増加傾向。中でも、目立つのが若者たちだ。〇八年にワタミグループで過労自殺した女性社員も入社一年目だった。この社員も月百四十時間超の残業を強いられていた。

 働く人を使いつぶすような「ブラック企業」への批判が高まり、高橋さんが亡くなる前年の一四年には、過労死遺族らの訴えで過労死等防止対策推進法が成立した。

 政府も今秋から、長時間労働の是正に向けて有識者による検討作業をスタート。高橋さんの過労自殺は、長時間労働是正の機運が高まる中で起こったものだった。

 高橋さんの労災認定について、遺族らが記者会見した今月七日、政府は初の過労死白書を公表し、「長時間労働が過労死の最も重大な原因」と指摘した。

 過労死問題に詳しく、白書作成にもかかわった森岡孝二関西大名誉教授は「過重労働に対する企業の責任が厳しく問われるようになっているにもかかわらず、日本を代表する企業で、しかも過去に司法にとがめられた電通で過労自殺が繰り返されたことは深刻な問題だ。まだまだ長時間労働是正へ企業の本気度が足りない。過労死防止には、残業上限の法的規制は避けられない」としている。

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