東京新聞社説 ブラック企業 離職率を開示させよ

東京新聞 2012/11/21

 就職活動する大学生向けの会社説明会が十二月に解禁される。景気の長引く低迷で相変わらず「狭き門」が予想されるが、そうした若者の窮状につけ込む“ブラック企業”の存在は放置できない。  

 慢性的な人手不足状態で深夜勤務は六日連続、休日も研修やリポート漬けにする飲食チェーン。多めに採用して入社後に猛烈に競争させ、即戦力にならなければ使い捨てるIT企業…。  

 ほかにも「『はい』以外の返事は禁止」にしてパワハラをする、過労死ぎりぎりの労働を強いる、残業代を支払わない−こうした労働環境が著しく劣悪な企業は「ブラック」と呼ばれ、学生の間では定着している。就職活動の学生にとって、ブラック企業にいかに入社しないかが大きな精神的な負担となっている。  

 大卒者のうち約三割が正社員になれない厳しい「就職氷河期」である。「内定がほしい」「正社員になりたい」という学生があふれているところに、ブラックが暗躍する温床がある。日本型の長期安定雇用が崩壊し、人材を育成していこうという視点が欠ける企業も増えた。特に飲食などサービス業界は典型的な“デフレ業種”で、価格競争のしわ寄せで若者の人件費を圧縮する力が働きやすい。  

 許せないのは業界の一、二を争うリーディング企業の中にブラックが目立つことだ。言い換えれば「若者の使い捨てや犠牲」の上に成り立っている好業績である。これはどう考えてもおかしい。 

 就職難の一方で、若者が就職から三年以内に辞めてしまう早期離職率が三割に達しているのは「ブラック」の存在が大きいはずだ。  

 厚生労働省は十月末に、初めて「大卒者の三年以内離職率」を業種別で公表した。ようやくブラック対策に乗り出した格好だ。それによれば、宿泊・飲食サービス業や教育業の離職率は約五割に達し、一年後の時点でも四人に一人が辞めている実態が分かった。  

 だが、業種別の公表では、不十分である。やはり、各企業別に離職率や平均就業年数といったデータを明らかにしなければ、学生にとっての判断材料とはならないし、ブラック企業の存在を明るみに出すこともできない。  

 全企業一斉の公表が難しいならば、公表できるところから始めればいい。それによって企業の姿勢を判断できるはずだ。企業のブランド名ばかりを追うのではなく、優れた中堅や中小企業に目を向けることも、大事にしたい。

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