愛媛新聞 2014年7月11日
働く現場で「人手不足」が深刻化してきた。
外食産業などのサービス業では今春、時給を上げても従業員が確保できず、店舗閉鎖や休業に追い込まれた。建設や介護、運輸など、労働条件の厳しい業種ではさらに顕著で、人が集まらないために商機を逸し、収益低下から倒産に至る「人手不足倒産」も、昨年の2倍のペースで増え続けているという。
企業側はこれまで、正社員を減らして育成や待遇改善を怠り、非正規労働者を増やして当座しのぎを続けてきた。人を、単なるコストや経営の足かせとしか見てこなかったツケが噴出し、労働者からも選別され、行き詰まろうとしていると言わざるを得ない。
急激な人口減と少子高齢化が進む中、労働力不足への対処は喫緊の最重要課題。人手が足りないなら賃上げや労働環境の改善を急ぐべきだが、現状では逆に、企業も政府も「雇用の質」をさらに下げ、人を使い捨てにする働かせ方を拡大しようとしている。時代に逆行するような動きは、到底看過できない。
5月の有効求人倍率は1.09倍(愛媛は1.12倍)と約22年ぶりの高水準だった。数字上は「好転」に見えてもその実、正社員に限れば求人倍率は0.6倍台どまり。企業が求めるのは相も変わらず、低賃金の非正規雇用者、しかもシニア層中心で、将来を担う若者の正規採用は鈍い。賃上げの恩恵もごく一握りで、このままでは、成長どころか現状維持も危うい。
そうした中、安倍政権は、かねて本欄でも反対していた「残業代ゼロ制度」の導入を成長戦略に盛り込み、今月から本格議論を始めた。
いくら働いても時間に関係なく成果で賃金を決める制度には、企業のメリットしかない。労働者にとっては、会社が勝手に成果を決め、残業しても終わらなければ「能力がない」と自己責任にされる、「雇用改悪」に他ならない。
しかも、議論初回にして早くも、「年収1千万円以上」などと限定していた対象の要件緩和が公然と主張された。「(要件を緩め)中小企業でも使える制度にしてほしい」「幅広い職種が対象になるよう意見発信していく」…。多くの職場で常態化している長時間・過重労働を改めようともせず、むしろ合法化を狙う経済界の厚顔ぶりにはあきれ果てる。制度そのものの白紙撤回を強く求めたい。
今求められているのは、旧態依然の企業の論理、ビジネスモデルからの転換である。
人をないがしろにしては、技術は引き継がれず、事業は滞り、設備投資もままならない。働かせる側の意識変革がなければ企業も社会も立ちゆかないことに、一刻も早く気づいてもらいたい。