第119回 「雇用戦略対話」の合意にみる雇用政策

「雇用戦略対話」という政府の諮問会議をご存じでしょうか。09年10月に鳩山前内閣のもとで決定された「緊急雇用政策」にもとづき、雇用戦略に関して、労働界、産業界と有識者が意見交換と合意形成を図ることを目的として設置され、菅内閣に引き継がれたた機関です。

先頃、この機関が「雇用戦略・基本方針2011」という表題の政策合意文書を発表しました。この「合意」は、10年9月の「新成長戦略実現に向けた3段構えの経済対策」や、10月の「円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策」を下敷きにしており、特段新しいものではありません。

先の「3段構えの経済対策」は、1) 円高・デフレ状況に対する緊急的な対応、2) 今後の景気・雇用動向を踏まえた機動的対応、3) 11 年度における新成長戦略の本格実施、という政策展開の3段階を指しています。その中心に置かれている「雇用」については、?経済を成長させて介護・医療・保育、環境、観光など需要が大きい分野において「雇用を創る」、?円高等による国内雇用の空洞化を防ぎ「雇用を守る」、?求人ニーズの高い中小企業等とのマッチングを強化し「雇用をつなぐ」としています。今回の「合意」は、これを(1)「つなぐ」、(2)「創る」、(3)「守る」という順序に置き換え、とくに新卒者の雇用対策の推進を重視しています。

「新卒者等雇用対策の推進」の項には、以下のように書かれています。

「経済対策で倍増したジョブサポーターやキャリアカウンセラー、新設した新卒応援ハローワークによる支援や、卒業後3年以内の既卒者に係るトライアル雇用を行う企業への奨励金の活用、多様なインターンシップの実施、ジョブカフェにおける求人開拓の実施などにより、新卒者と求人意欲のある中小企業とのマッチングを含め、新卒者等の雇用対策を強力に推進する。

また、卒業後3年以内の既卒者を採用する企業への奨励金を支給し、卒業後3年以内は新卒採用枠として門戸が開かれるよう、事業主を支援する。

学生が社会に円滑に移行できるよう学生の就業力を向上させるために、社会や地域が求める人材の養成・雇用に資する大学教育の改革を強力に推進する。」

これは、大学生の就職内定率が「過去最悪」を記録し、「就職新氷河時代」の到来が社会問題化しているなかで打ち出された、積極的な若年者雇用対策として評価できます。「既卒者の新卒枠での雇用促進」は、「3段構えの経済対策」でも言われていたことです。それはまた、日本学術会議が深刻な就職難で内定を得られずに卒業する学生が増えていることや、現行の新卒者に限った一括採用ではその後は正社員になれる可能性が低いことを憂慮して、2010年8月に文部科学省に行った提言に呼応したものです。すでに一〇月には、高木義明文科相が経団連などの主な経済団体を訪問し、3年以内の既卒者を新卒として採用するよう、企業側に申し入れた経緯もあります。

日頃は政府の雇用政策に難癖をつけている私ですが、就職難にあえぐ新卒者と若年既卒者の就職支援活動については、声援を送りたいと思います。とはいえ、「合意」には見過ごせない問題があります。それについては回をあらためて見てみましょう。

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