労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏に拙著『就職とは何か―〈まともな働き方〉の条件』(岩波新書)を献本したところ、労働問題で断トツのアクセス件数を誇るhamacyanブログ(EU労働政策雑記帳)で取り上げてくれました。
濱口氏は、拙著について「就活の話から入って、『まともな働き方』の重要性を説くなど、共感できるところの多い本です」と言ってくださっています。その一方、「はじめに」で厚生労働省の「就業形態の多様化に関する総合実態調査」に触れた以下の箇所に関しては、私の説明不足を見逃さず、厳しい指摘をされています。
「同調査のなかの個人調査の結果に目を転ずると、驚くべき事実が浮かび上がる。非正社員比率は、全年齢の男女計で見ると、38.4%であるが、なんと、15〜19歳では男性91.6%、女性95.8%、20〜24歳では男性46.7%、女性44.2%となっている。これらの数字から、高校新卒者は大多数が非正社員であること、短期大学及び大学の新卒者を含む年齢層は男女とも非正社員比率が45%前後であること、・・・などがわかる」。(iiページ)
濱口氏はこの点について、「これはむしろ、在学中の者も含めた10代後半の若者の雇用形態が9割以上非正規と解すべきで、彼らの大部分がいわゆる「アルバイト」就労者であることを考えれば、わりと自然な数字であろうと思われます。20代前半についても、ある部分はやはり大学生のアルバイトが含まれているでしょう」と書いています。
これはおっしゃるとおりで、私の説明は短絡的で誤解を生む余地があります。厚労省のさきの調査は、民営(民間)事業所を対象としているために、調査対象労働者を正社員、非正社員に区別しています。したがって「非正規」という用語はつかっていません。また、「アルバイト」という呼称もこの調査では用いられていません。それに注意を促すために、「はじめに」の該当箇所では「パート(アルバイトを含む)」とわざわざカッコ書きしています。
これでアルバイトに触れたつもりでしたが、今考えるとこれでは説明になっていません。学生アルバイトはこの調査では「パートタイム労働者」だけでなく、「臨時的雇用者」にも含まれることを明記していない点でも不正確でした。
2005年に著した『働きすぎの時代』(岩波新書)では、私は「学生アルバイト」にまとまった紙幅を割き、「(学生は)外食産業やコンビニなどのアルバイト依存残業の『基幹的』労働力」になっていることや、それらの産業が「時間を細切れにつなぐ不安定な雇用によって支えられている」ことを強調しました。どの本だったかはすぐには特定できませんが、大学生が在学中に非正規で働くようになればなるほど、正規の非正規への置き換えが進み、卒業後に就く正社員の仕事口が減っていく、といった趣旨のことを書いた記憶もあります。
この言い訳によっても、例の説明が不正確であることには変わりないので、重版の機会があれば訂正しておこうと思います。
これは補足ですが、「就業形態の多様化」に関するさきの厚労省調査からは、在学・卒業別の若年者の非正規比率や、大学生の就労実態を知ることはできません。そこで参考までに2007年「就業構造基本調査」(「就調」)を見ると次のようになっています。
表 若年者の非正規雇用比率(%)
在学生を含む 在学生を除く
男性 15〜19歳 64.9 32.3
20〜24歳 40.8 27.4
女性 15〜19歳 78.6 50.2
20〜24歳 46.0 37.8
調査の対象と方法が異なるので、この2007年「就調」の数字をさきの「就業形態の多様化」調査の数字と直接比較することはできません。しかし、これが2007年の現実を反映した数字だとすると、15〜19歳では男女とも非正規が9割を超えているという、2010年の「就業形態の多様化」調査の結果は、濱口氏のように「わりと自然な数字」とは言えません。この点では、私は最近数年間の非正規化の進行はやはり「驚くべき事実」だと思います。
なお、2007年「就調」の同じデータの男女計の数字では、大学生のアルバイト就労者は、15〜19歳(大学生は18〜19歳)で約23万人、20〜24歳で約59万人います。合わせると約83万人を数えす。学生でもパートや派遣で働いている人もいるので、それらも含めると学生の非正規就労者は86万人にも達することになります。
さらに2007年「就調」の同じデータから短大・高専・大学・大学院を合わせると非正規就労者は優に100万人を超え、それに高校・専門学校を加えると、150万に上ることがわかります。
濱口氏の指摘していただいたおかげてこうしたことも確認できました。