第244回 厚労省の派遣見直し案は、派遣労働の恒久的・全面的受入を可能にするものです

厚生労働省は12月12日、労働者派遣制度の見直し骨子案を労使の代表が参加する労働政策審議会に示しました。これは直接には8月20日に発表された同省の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書」を下敷きにしていますが、もとになっているのは日本経団連の要求とそれを受けた規制改革会議の意見です。内容は派遣制度を利用する企業に極めて都合のいいものになっています。

骨子案の概要については、当HPの「トッピックス」欄に関連するNHKニュースと日経記事をアップしておきました。それらを参照して言えば、今回の見直し案のポイントは以下のようになっています。

◇「専門26業務」に限り派遣期間の制限を設けないという現行の枠組みを廃止し、派遣受け入れ期間の上限を「業務」別から「人」別に改める。
◇企業は業務を問わず、3年毎に人を入れ替えれば何年でも派遣労働を利用できるようにする。
◇派遣会社が「無期雇用」をしていれば、同じ派遣労働者を同じ場所で何年でも使用できるようにする。
◇結局、派遣先企業が派遣労働者を無期限に受け入れることができるようにする。

ここで歴史を振り返れば、派遣制度はこれまで以下のような段階を踏んで自由化されてきました。

?戦前は組頭や周旋屋が人夫を支配下において鉱山や工場に送り込む仕組みがピンハネや強制労働の温床に。
?戦後は、戦前の反省から、職業安定法で労働者派遣業を営むことも、派遣労働者を受け入れることも禁止。
?1985年に成立した労働者派遣法で、それまでに既成事実化していた労働者供給事業の違法状態を「専門16業務」に限って解禁(1996年に26業務に拡大)。
?1999年の改定で,派遣許可業務を限定列挙するポジティブリストから,禁止業務(港湾運送,建築,警備,医療,製造業)以外は原則OK というネガティブリストに。
?2003年の改定で,工場の製造現場への派遣も解禁され,既成事実化していた製造派遣が一挙に拡大。
?リーマンショック後の大量派遣切りを踏まえた2012年の見直しで、「日雇い派遣」が原則禁止に。
?安倍内閣の下で派遣というかたちでの労働者の働かせ方を全業務で恒久化する派遣制度見直し案が浮上。

労働者派遣制度は、政府・厚生労働省が、財界・経営者団体の要求にずるずると押されて、このように部分解禁から全面自由化の歩みをたどりました。財界側は派遣法成立時にすでに「規制緩和という時代の流れを背景として、事業規制は原則撤廃すべきであり,とりわけ,許可制、派遣対象業務,派遣期間等の諸規制については,制度の円滑な運用を可能とするよう、早急に見直すべきである」(中央職業安定審議会労働者派遣事業等小委員会,1984)と主張していました。この要求を全面的に実現させようとするのが今回の厚労省案です。

アメリカでは派遣労働者はテンポラリ・ワーカー(temporary worker)と言います。あくまで臨時労働者であるからです。テンプスレイブ(tempslave)という言い方もあります。派遣制度は労働者を人としてではなく奴隷のように物として売買し、使い捨てるからです。今回の厚労省案は、使用者(派遣先企業)としては、派遣労働の業務や期間の縛りをなくそうとするものですが、労働者にとっては、どうなろうと使用者の都合次第でいつでも使い捨てられる臨時奴隷的な働き方であることにはかわりません。最後にその理由をいくつか挙げておきます。

<労働者派遣制度の本質的特徴>
○一体不可分の雇用と使用を無理矢理「分離」して、労働市場仲介業者の中間搾取を合法化
○労働条件の決定を派遣元と派遣先の商取引に委ね、労働契約から労働者を排除
○派遣元と派遣先の派遣契約が成立し継続している場合にのみ労働者に仕事
○労働者の生活・健康・安全に対する使用者の配慮義務を空洞化
○企業の福利厚生の利用と社会保険の適用から労働者を締め出し
○労働者から団結の場を奪い、組合結成を困難にし、団体交渉等の権利行使を制限
○企業による労働力の需給調整と使い捨てを容易にするための人為的制度
                    (12月15日一部修正)

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