コロナ労働相談 「解雇」

1 解雇

Q 私はタクシー運転手の正社員ですが、先日、突然、何の相談もなく解雇すると言われ、解雇通知書を手渡されました。解雇は適法なのでしょうか。

A 解雇予告手当を受け取ることができます。また、事業縮小・人員整理を理由とする解雇は、慎重な手続きが要求されており、解雇自体が違法・無効となる可能性があります。

このQは、2020年4月5日(日)に実施された日本労働弁護団主催「新型コロナウイルス感染症に関する労働問題 全国一斉ホットライン」(http://roudou-bengodan.org/topics/9316/)において、私が実際に相談を受けた事案を元にしています。

2 解雇予告手当

 使用者は労働者を解雇する場合、労働者に対して20日以上前に告知するか、解雇予告手当を支払う必要があります(労基法20条1項)。

 Qの事案では、突然、なんの相談もなく、解雇されています。解雇された方は、30日分の平均賃金を受け取ることができます。

3 「期間の定めのない労働契約」と「期間の定めのある労働契約」

 労働契約には、大きく分けて二つの種類があります。一つは、「期間の定めのない労働契約」、いわゆる正規雇用、正社員です。もう一つは、「期間の定めのある労働契約」、いわゆる非正規雇用、非正規社員です。今回は、「期間の定めのない労働契約」であることを前提に解説します。

4 期間の定めのない労働契約(正規雇用、正社員)

(1) 使用者が労働者を解雇するには、①「客観的に合理的な理由」があり、②「社会通念上相当」であることが必要です(労働契約法16条)。

 特に、新型コロナウイルスが原因で業績が悪化したことを理由に労働者を解雇する場合、労働者に落ち度がないため、「整理解雇」として通常の解雇よりもずっと厳格に判断されます。新型コロナが原因で一時的に客足が遠のいたからといって、簡単に解雇できません。

 整理解雇は以下の4つの要件で違法かどうかが判断されます。

 ① 人員削減の必要性がある

 ② 解雇を回避するための努力を尽くした

 ③ 解雇される者の選定基準および選定が合理的である

 ④ 事前に使用者が解雇される者へ説明・協議を尽くしたか

  具体的には、経営状況を踏まえ、預貯金や借入金の状況、株主配当の状況、役員報酬の削減、諸経費の削減、希望退職者の募集など他の雇用調整手段の検討、新規採用の停止があるか、残業規制、賃金・賞与のカット、希望退職者の募集等、雇用調整助成金の利用・検討の有無、解雇の必要性や内容・補償内容等について解雇される人の納得を得る説明をしたかなどが考慮されます。

(2)の事案では、経営者は、労働者に、突然、何の説明もなく解雇を言い渡しているので、④の要件から問題があります。また、雇用調整助成金の給付を受けられなかったのか、経営者の賃金をカットできなかったかなど、聞きたいことがたくさんあります。

(4) 悪質な会社に注意!

最近、600人の運転手が一斉解雇されたと報道されました。しかし、使用者は、「感染リスクを抱えながら低賃金で働くより、雇用保険の失業給付を受けてもらった方がいい」と説明して、タクシー運転手に「退職合意書」にサインするよう求めたようです(https://mainichi.jp/articles/20200416/ddm/041/020/064000c)。

このように、悪質な経営者は、「解雇する」「解雇されると●●な不利益がある」等と脅かしつつ、労働者に選択肢を与えず、自発的に退職届を出させる形をとって、解雇せず退職を迫ることがあります。

解雇すると言われても、絶対に自分から退職届を出したりしないように注意してください。

4 期間の定めのある労働契約(非正規雇用)

Q 私はいわゆる「非正規雇用」で、3ヶ月の契約(契約社員、アルバイトなど)を3年間、契約の更新を繰り返して勤務してきましたが、会社からコロナウイルスの影響で契約を更新しないと言われました。

A 期間満了の場合でも、労働契約が終了できない場合もあります。期間途中の解雇の場合は、特に厳格に判断されます。いずれにせよ、諦めないでください。

(1) 契約期間が定まった労働契約の期間満了時に、次の更新が行われず雇用を打ち切ることを「雇い止め」といいます。

解雇とは異なり、雇止めの場合はあらかじめ定められた期間が終了したので、上記の解雇とは異なります。しかし、①期間の定めのない労働契約と実質的に同視できる場合や、②契約の更新に合理的な期待がある場合には、雇止めを行う場合でも、解雇と同様に、「客観的に合理的な理由」があり、「社会通念上相当」であることが必要です。

 ①、②に該当するかは、従事している業務の内容(臨時的か)、契約回数、契約の通算期間、恒常的な業務か、契約期間の管理状況、雇用継続を期待させる使用者の言動、契約書の更新に関する記載(「不更新条項の有無・内容」)など、様々な事情から総合的に判断されます。

 ①、②に当てはまる場合には、雇止めが違法になる可能性もありますので、弁護士、労働組合などの専門家やASU-NETブログの「誰でも労働相談フォーム」(https://hatarakikata.net/consultation/)に相談してください。

(2)期間途中での解雇

 契約期間満了を待たずに、期間途中で解雇を行う場合には、より厳格に解雇が規制され「やむを得ない事情」(労働契約法17条1項)が必要になります。

 有期雇用契約の期間の定めは、その期間は原則として雇用を保障するという趣旨なので、よほどのことがない限り解雇することはできません。直ちに契約を終了しなければならな特別の重大な理由が必要です。単に「経営が厳しい」、「コロナで売り上げが減った」という理由では、有期雇用の契約期間途中の解雇は認められません。

 Qのようなケースも、解雇が無効である可能性が高いでしょう。

弁護士 中西翔太郎

この記事を書いた人