第43回 解雇禁止・生活保障をめぐるイタリア労働組合の取り組みー新型コロナウィルスとの闘い(5)

■解雇禁止の法的措置

 Cura Italia法律命令は、5月16日までの期限付きですが、解雇を禁止する条項を設けて、「危機の際、雇用を守るためのあらゆる手段が使われるべきだというシグナル」を与え、零細事業場支援のための財源作りを促しました。

 この法律命令の中で「解雇禁止」に関する条項(46条)は、次のとおりです。

 この法律命令の発効の日から、第223号法(1991年7月23日)第4条、第5条、第24条の規定による手続開始を60日間排除し、2020年2月23日以降に開始された手続は、進行を保留する。

 上記期間が終了するまで、事業主は従業員数にかかわらず、第604号法(1966年年7月15日)第3条に基づく正当な客観的理由による解雇予告が必要な雇用契約を解約することができない。

 第223号法による解雇とは、経営上の理由による集団解雇を意味し、第604号法による解雇のうち「正当な客観的理由」による解雇とは、生産方式、労働組織の編成及びその規制や機能上の理由をそれぞれ意味する。

 ここでは、解雇の中で、〔1〕経営上の理由による「集団解雇」と、〔2〕正当な客観的理由による「個別解雇」の二つの解雇類型が対象となっています。なお、日本の懲戒解雇などに当たる「正当な事由による解雇」は対象となっていません。ここでは、〔1〕の集団的解雇についてだけ指摘します。

 1991年第223号法は、集団的解雇、いわゆる整理解雇を対象にするもので、日本とは違ってかなり厳しい制約を加える内容です。大きく二つの手続きを踏むことが義務付けられます。

 事業主は、経営が悪化したとき「特別所得補充金庫」に請求して、従業員に賃金の80%の給付を受けて解雇回避をすることができます。しかし、その給付期間(事情によるが、原則、最長12ヵ月)が終わっても、従業員の就業を完全に回復できず、また、解雇の代替手段に訴えることができない場合、1991年法律223号第4条に基づいて、集団解雇の手続きに進むことができます。

 その集団解雇手続きは、最初の45日間、組合との協議段階です。事業主は、労組代表(経営内組合代表または最も代表的な労組)に事前に①解雇を回避できない理由、②社会的影響を減らすプログラムについて通知します。組合から要請があれば、解雇対象選定基準などについて回答して、和解で解決できないか協議することが義務づけられます。
 それでまとまらない場合には、次に、30日間の政府機関(実際には、出先の労働監察官)との協議が義務づけられています。こうした手続きを経ないと解雇することができません。

 今回のCura Italia法律命令第18号によって、この手続きにストップが掛かりました。2020年3月17日から60日間(2020年5月16日まで)、この解雇手続きは停止されることになったのです。これは、従業員数に関係なく、すべての事業主が対象となります。

 イタリアの感染拡大は、4月末の段階で、かなり減少してきました。しかし、政府は、3大労組との話を経て、予算も増額し、5月に法律命令を改正して、解雇の停止は2ヵ月間であったものをさらに3ヵ月延長し、合計5ヵ月間となっています。

 こうしたイタリアの「解雇禁止」の法制導入は、スペイン、アルゼンチンにも影響し、同様な措置がとられました。また、韓国でも、民主労総と韓国労総の2大労組がともに、「解雇禁止」と、非正規雇用や特殊雇用を含む「総雇用保障」という要求にも反映されています。日本でも、非正規労働者からの相談を受ける中で、現行の「休業手当」や「雇用調整助成金」だけでは、間尺に合わない状況が広がっています。イタリアは、労働組合が先頭に立って、すべての労働者のために交渉し、注目すべき支援制度を導入しています。今後も、その動向に大いに注目していきたいと思います。


【参考情報】
Filippo Aiello, Emergenza COVID-19: Blocco dei licenziamenti e i termini di impugnazione dei licenziamenti (ed altri casi soggetti a decadenza), (Wikilabour – Newsletter n. 06 del 23/03/2020)
JIL「イタリアの労働市場改革―解雇法制を中心に」(2014年4月)
9千人解雇はねのけた イタリア(「しんぶん赤旗」 2002年02月16日、17日)

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