新型コロナによる雇用への影響が各国で現れています。日本については、伍賀一道さんが「最新の雇用・失業統計は何を示しているか」という分析とコメントを寄せていただきました。
昨日、アメリカの4月の雇用統計が発表され、失業率が14.7%、2050万人の就業者減など、戦後最悪の数字になったことが報道されています。以下、示されたいくつかの評価を集めてみました。(2020.5.8)
ロイターのコラムなどに、今回の米国の雇用統計の背景についての注目すべき見解が出されました。また、韓国の進歩的新聞チャムセサンが、米国と欧州諸国の失業率の違いを指摘するForeign Policy紙を紹介しながら、欧州諸国の雇用・賃金維持政策を概観しています。(2020.5.11)
朝日新聞2020.5.8_米の就業者2050万人減 失業率とともに戦後最悪水準
米労働省が8日、4月の雇用統計を発表した。新型コロナウイルスによる経済危機で、非農業部門の就業者数(季節調整済み)が前月比2050万人減、失業率が14・7%と、いずれも戦後最悪の水準となった。戦前の大恐慌期に迫る雇用の急減が、米経済に長く爪痕を残し、日本にも波及するのは確実だ。
吹き荒れる失業の嵐 働き手を追い詰める絶望死のリスク
景気動向を反映しやすい就業者数は、統計が残る1939年以来最悪の落ち込みで、市場でも2200万人減が予想されていた。これまでの最大の減少幅は、第2次世界大戦の動員が終わった45年9月の195万9千人で、その10倍超の急落。2008年のリーマン・ショック直後の最悪期と比べても約26倍の減少となった。米国がリーマン後に積み上げてきた雇用の増加分のほぼすべてが、4月単月で吹き飛んだ。失業率も戦後最悪だった82年11、12月の10・8%、リーマン後の09年10月の10・0%をはるかに上回った。市場予想は16%だった。統計の単純比較はできないが、1920~30年代の大恐慌期の約25%に次ぐ水準で、米国を主要市場とする日本の産業への影響も甚大だ。雇用統計は米連邦準備制度理事会(FRB)などが重視する最重要統計の一つで、FRBによる未曽有の金融緩和も長期化は必至だ。
日経新聞_米失業率、戦後最悪の14% 4月の就業者2050万人減
米労働省が8日発表した4月の雇用統計(速報値、季節調整済み)は、失業率が戦後最悪となる14.7%に急上昇した。就業者数も前月から2050万人減り、過去最大の減少だ。新型コロナウイルスの感染拡大で経済活動がほぼ停止した影響が響いた。米政権は2020年後半からの回復を見込むが、職場復帰が遅れれば経済は長期停滞のリスクがある。
失業率は前月(4.4%)から10.3ポイントも上昇し、失業者数も714万人から2308万人に急増した。失業率は08~09年の金融危機時のピーク(09年10月、10.0%)や第2次世界大戦後の最悪期(1982年12月、10.8%)を超え、大恐慌直後の40年以来、80年ぶりという歴史的な水準に悪化した。
日経新聞2020.5.9 日本、潜在失業者多く 民間が余剰人員抱える
米国が8日に発表した4月の雇用統計では失業率が14.7%と第2次世界大戦後で最悪の水準となった。欧州も2021年には10%を超える可能性がある。一方、日本の失業率は1桁台にとどまる見通しだが、民間が抱え込んだ余剰人員「潜在失業者」も多い。経済活動の再開につまずけば失業率が上昇する恐れもある。
毎日新聞2020.05.9 米就業者2050万人減 雇用最悪、回復困難 コロナ破綻、人員整理
新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済活動の急停止を受け、米国の雇用情勢が歴史的な水準に悪化した。米労働省が8日発表した4月の雇用統計では、就業者数(非農業部門)は前月から2050万人減少し、失業率は14・7%と1930年代の大恐慌以来の高水準となった。感染予防のための外出規制や営業停止命令で打撃を受ける小売りなどのサービス産業では人員整理や経営破綻が始まっており、経済再開後の雇用回復は困難さを増している。
雇用統計によると、業種別の就業者数は、外出規制の影響を受けやすいレジャー・接客が765万人減と突出して落ち込んだほか、介護ヘルスケアが208万人減、小売りが210万人減だった。主要州で食品や金融、ライフラインなど生活に必須な事業以外が制限されたこともあり、建設業は97万人、製造業は133万人減少した。
Bloomberg 2020.5.8 米雇用統計:4月は失業率14.7%に上昇-労働市場が急激に悪化
ムーディーズ・アナリティクスで金融政策の調査を率いるライアン・スイート氏は、統計を「壊滅的だ」と表現。「これらの数字ひとつひとつに人間1人の重みがある。この状況から回復するには何年もかかるだろう。多くが一時的なレイオフであり、経済活動の再開とともに速やかに仕事に戻れることを期待しているが、その保証はどこにもない」と述べた。
新型コロナの感染拡大は世界各国の経済に大きな打撃を与えているが、米国における失業の問題は大半の先進国より深刻だ。米国では約1億6000万人が雇用主を通じて医療保険に加入しており、失業すれば自分で高額な保険料を毎月支払うか、そうでなければ保険そのものを失うことになりかねない。そうした状況は、新型コロナによる経済的影響を悪化させる可能性がある。
※ただ、原文は以下の通り。下線部の通り、「新型コロナによる経済と健康への影響を悪化させる可能性がある」と健康への悪影響も指摘している。失業によって、アメリカでは、医療保険を受けられない人が急増して、健康への悪影響があることは重大だと思う。「健康」を脱落させた日本語訳には疑問を感じる(swakita)。
While the pandemic has crushed economies around the world, job losses hurt more in the U.S. than in most other developed nations. That’s because about 160 million Americans get health insurance through employers and without jobs, they could face steep monthly premiums or lose coverage entirely — which may exacerbate the economic and health impact of Covid-19.
コラム:4月米雇用統計、見出しの数字に隠れた重要な事実(2020.5.11 ロイター)
(Anna Szymanskiさんのコラム)
今回の統計はぞっとするような内容だった。そのこと自体に意外感はないが。過去約10年間分の雇用増加は帳消しになった。2007年12月から09年6月にかけての「グレート・リセッション(大不況)」で失われた870万人を大幅に超える減少で、今年第2・四半期の米経済が年率30%台後半のマイナス成長になる可能性を示す。過去約70年間の雇用統計の歴史上、最大の雇用者減であり、娯楽・観光産業では約半分の雇用が吹き飛んだ。
4月統計は必ずしも所得の実態を正確に映し出していない。政府の景気刺激策により失業保険で受け取れる額は週600ドル増額されており、ニューヨーク・タイムズ紙によると、実は大半の州で、ならして見れば、給付額が通常の給与水準を上回る額となっている。
雇用統計史上、最悪になった失業率は、新型コロナ危機前に記録した最低の失業率と同様、全体像を描き出していない。求職していない労働者は含まれていないからだ。しかも、職を失ったうちの1800万人は一時帰休に分類されているが、今後、再雇用されるかどうかは分からない。人々はロックダウン解除後も飲食店などに出かけるのを恐がり、需要は低迷を続けるかもしれない。
米国より欧州の失業率が低い理由…”総雇用保護” (2020.5.11 民衆言論チャムセサン)
〔アメリカのForegin Policyを引用〕 代表的に、米国際問題専門誌<フォーリンポリシー>は先月24日「米国とは対照的に、他の先進国、特に北欧は米国よりもよく対応している」とし「ほとんどすべての欧州は企業を通じて賃金の60-90%まで労働者の所得を直接補償している」と指摘した。また「無制限の米国自由主義経済は既に2008年の金融危機後、信頼を失った」とも説明した。
フランスの場合はコロナ期間の解雇を禁止し、雇用主が休業が必要な場合は給与不足分を失業手当の形で国が支援することにした。失業手当は最低賃金の100%または最低賃金の4.5倍まで一般給与の84%を保障することにした。こうした措置はマークロン仏大統領が今年3月12日、”国家は家に泊まらなければならない人々の経済的負担を引き受ける”と述べた後、実施された。翌日、ブルーノル·マリー経済相も”どんな労働者も1セントも失わない”と付け加えた。英国政府も毎月最大2500ポンド(約370万ウォン)まで賃金を支援することにした。
スペイン政府は3月27日、コロナ期間の正規職や非正規職を含めて解雇を禁止する措置を発動した。 スペインはまた、政府基金で労働者賃金の最低70%を保障すると明らかにした。
KOTRAミリーノ貿易館の報告書によると、イタリアでは3月中旬、企業の規模や職種によって適用されていた労働者の一時的休職制度を、5人未満の企業と農業や短期季節労働者、観光や公演文化従事者まで適用範囲を広げ、最大9週間の資金を支援することにした。雇用を維持して一時的休職施行すれば、純賃金の80%まで保障する措置をいう。 また、注文量が急減したり部署が閉鎖されるなどの”合理化された客観的事由”がある場合にも60日間解雇を禁止した。
結果として、欧州連合平均失業率は3月6.6%で前月に比べ0.1%p上がっただけだ。 現在、米国の失業率14.7%の半分にも満たないことになる。
このような欧州のコロナ危機解雇保護措置は、たいていドイツのクルツアルバイト政策をモデルにしている。しかし、このモデルも雇用の不安定や労働貧困に対する効果は限られており、地元では批判を受けている。ドイツ左派党は、国家が保障する支給率が現在の60-65%ではなく、90%以上にならなければならないと考えている。また、危機が繰り返され、クルツアルバイトが全労働者に拡大するとし、賃金削減のない雇用維持政策を展開すべきだという意見も少なくない