人権無視の会計年度任用職員は持続可能な制度と言えるのか

            NPO法人働き方ASU-NET  川西玲子

 自治体に非正規職員が増大し110万人を超え、3割~4割どころか正規・非正規が逆転する自治体も少なくない。保育士の5割、図書館職員の8割、学童保育指導員のほぼ10割、市民が助けを求めて駆け込む 婦人相談員、家庭児童相談員、消費生活相談員、生活困窮者自立支援員、生活保護面接相談員、スクールカウンセラーなどの相談業務は、社会の変化とともに増え続けているが、そもそもこれら相談業務は最初から非正規職員を前提とした職種となっている。この結果、全国各地で専門職種の非正規化が進行している。

 2020年の公務員制度改定は、当該職員が一般職の非常勤職員として地方公務員法上も明確に位置付けされたことや、期末手当の支給が一定の条件の下で可能になったという改善はあったが、反面1年任用という期限がつけられたことは、公共サービスの民営化促進のために、いつでも「雇止め」できる「会計年度任用職員制度」の創設ではなかったのか、公務労働の多くを非正規公務員が担うことを固定化するのではないか、という制度や運用について多くの問題が指摘されてきた。

 「会計年度任用職員制度」は、果たしてこれからの市民の期待に応えるサービスを提供できる持続可能な制度と言えるのか。住民の視点、公共サービスの支え手の視点、自治体の在り方の視点から真剣に問い直す時期に来ている。

 まず誰もが認めざるを得ないように「会計年度任用職員制度」は、ジェンダー不平等制度である。総務省調べでは全国で90 万人(2020 年4月1日)、そのうち女性が3/4を占め、市区町村では全職員のおよそ3人に1人の計算になる。まさに無権利・劣悪処遇の女性が支えている制度だといえる。総務省は今回の法改正は、これらの職員の処遇改善のための法改正だとしているが果たしてそうなっているのだろうか。

 まず第一に賃金では、総務省が地方自治体に示したマニュアルでは、国が進めようとしている「同一労働同一賃金」や「均衡処遇」という理念からも逸脱した賃金の上限設定がある不当な制度設計となっている。さらにフルタイムとパートタイムの格差は、民間よりもはるかに大きい。最低賃金制度の適用もなく年収200万円以下が6割となり、憲法25条で保障されている「人間としての最低限の暮らし」が脅かされ、官製ワーキングプアを生み出し続けている。

 第二に、労働者としての権利保障では、民間の労働者保護法制である「労働契約法」「パート・有期労働法」などをなんの理由も示さず適用除外しているために、民間との権利格差も大きい。しかも労働基本権を正規公務員同様に制限しているにも関わらず、その代償機関がない。労働協約が締結できず、労組法の適用も除外されていて、団交拒否などの不当労働行為に対しても労働委員会が活用できず、会計年度職員は訴えるところがなく団結権は大きく侵害されている。

 また、「任用期限は全員1年」、「3年公募」でリセットする制度は、今まで以上の雇用不安定となり、長い経験と専門性の必要な職種でさえも仕事に専念できない実態を作り出した。やりがいを奪い離職者が増え、福祉、保育、教育、介護などの分野での大幅な欠員状態は、会計年度任用職員の権利侵害のみならず、結果として住民サービスの質の劣化となり、住民の権利をも守れなくなり、その影響は大きい。

 第三に、正規・非正規という身分差別が格差を正当化しており、その根本にある「任用制度」は日本独特の人権侵害を生んでいる。地方公務員法で身分保障のある正規公務員と1年契約という極端に不安定な会計年度任用職員は、対等ではない「優越的な関係」となり、それらを背景にした、働き手の命綱ともいえる雇用を脅しに使う「クビハラ」が日常的に横行している(2023年8月公表:非正規公務員voicesアンケート)しかし、監視する組織外も含めた救済システムの事実上の不在が、「身ばれ」が怖くて声さえ上げられない構造的差別を引き起こしており、基本的人権さえ侵害している。そして、自由にモノが言えない風通しの悪い職場は硬直的な人間関係となり、ここでも住民サービスの劣化が引き起こされる。このように安易に雇止めできる制度が民営化を促進し、福祉にも採算やコストの理念が持ち込まれ、人件費を極限まで削減してきた。「会計年度任用職員制度」は一年有期のフルタイム公務員の合法化であり、正規公務員削減のための代替労働力ともいえるのではないか。

 本来なら、あらゆる人権侵害を許さない社会の構築に向けて、人権意識を研ぎ澄ますべき公務員が担う仕事を、「福祉の増進」からも、「人権保障」からも排除された非正規公務員がその任を担っている。県立広島大学の志賀信夫氏は構造的差別について『社会の仕組み(制度や生活)に織り込まれた差別は、あまりにも当たり前のものとなっているので気が付きにくい』と警鐘を鳴らしている。しかし、すでにこのような実態が蔓延している状況は、民主主義の危機、社会の危機とは言えないだろうか。

 自治体はワーキングプアや女性差別をつくりだすのではなく、人間の尊厳を守るために役割を果たすべきである。諸外国では公務の雇用制度が率先して民間に労働規範を示している。先進国では当たり前の無期雇用を原則として、「同一価値労働同一賃金」の給与制度や民間労働者保護法制である「労働契約法」18条、19条、「パート・有期法などを公務非正規にも適用することが喫緊の課題であり、人権侵害の「会計年度任用制度」は廃止し「期間の定めのない均等待遇の短時間公務員制度」の創設が望まれる。

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川西玲子