非正規社員の格差是正の最高裁判決について

弁護士 中西翔太郎

2020.10.28

1 最高裁判決が出ました

最高裁判所第一小法廷(山口厚裁判長)は、2020年(令和2年)10月15日、扶養手当や有給の夏休み・冬休みなど審理対象になった5項目の支給をすべて認める判決を出しました。原告団の請求が全面的に認められた喜ばしい判決であり、とても嬉しくなりました。私は、9月16日、旧労働契約法20条に違反することが認められたのに、損害が発生しないと判断した高裁判決に反論する部分の弁論を担当しましたが、その部分は「損害は発生している」と判断され、私の主張が認められました。最高裁は、弁論を開く前に結論を決めていると言われており、私が考え披露した弁論がどれほど聞かれたのか不明ですが、とても嬉しい気持ちになりました。

2 簡単には喜べない

 しかし、日本郵政事件により非正規社員の労働条件の格差が是正されたといっても、簡単には喜べません。日本郵政が出される2日前、2020年10月13日、最高裁判所は、大阪医科大学事件、メトロコマース事件の2つの事件で判決を言い渡しましたが、非正規社員の格差是正が認められなかったからです。この2つの事件では、それぞれ、非正規社員にボーナスと退職金がほとんど支払われなかったため、その支払を請求しましたが、最高裁はその支払を認めませんでした。

3 日本郵政事件はガス抜き?

 日本郵政事件では、扶養手当、有給の夏休み・冬休みなどで請求が認められましたが、いずれも請求認容額はそれほど大きくありません。他方、大阪医科大学事件とメトロコマース事件では、ボーナス、退職金という金額が大きなものについて請求が認められていません。全体的に見ると、非正規社員の格差のうち大きな部分は依然として残されたままです。

4 まとめ

最高裁は、非正規社員の格差のうち大きな部分を残し、小さな手当だけを是正するという判断を下しました。今後、コロナウイルスにより弱い立場におかれた方々にしわ寄せがくることが予想されるなか、格差是正のため労使が協調する必要があります。

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