欧州諸国では、2015年頃から広がって来たプラットフォーム労働をめぐって、それに対抗する動きが大きくなっています。そうした動きに注目して紹介することを目的に、このエッセイで連載を企画しました。そして、「第54回 欧州におけるプラットフォーム労働(1)イタリア・ミラノ検察庁は何故、何を根拠に動いたのか」を書きました。そこでは、イタリア・ミラノ市の食事配達ライダーたちをめぐって、ミラノ市の検察庁がウーバーイーツなどプラットフォーム企業に対して、厳しい措置をとったとする注目すべき報道記事がありました。そこで、まず、この記事の背景を中心にエッセイを書きました。
さらに、今年(2021年)になって、ミラノ市以外のイタリア各地でライダーたちが連携して取り組みを活発化させ、既存の労働組合とも共同して、政府を媒介にプラットフォーム企業との団体交渉が行われ、一定の大きな結果を獲得することになっています。今回は、こうしたイタリア・ライダーの運動の先頭に立ってきたボローニャのライダー・ユニオンの活動と、それを支援する自治体=ボローニャ市の政策に注目して、最近に至るまでのライダーたちの運動の背景を素描したいと思います。
なお、私は1988-89年に1年間、イタリア・ボローニャに滞在しました。しかし、その後約30年の諸政府(諸政権)による新自由主義的な規制緩和政策で、イタリアの労働者状態や労働組合運動が大きく変化(後退)していましたが、最近数年間に、新たな運動の広がりが見られます。イタリア語の翻訳は、長いブランクがありますので、新たな言葉など正確な訳になっていないかも知れません。お気づきの点があれば、ご指摘いただければ幸いです。(2021.7.27 swakita)
イタリア各地のライダー、起ち上がる
イタリアでは、2016年、食事配達のFoodora社が、同社に登録して働いていた配達ライダーたちに対して、従来の「時給システム」から配達ごとの「出来高給システム」に変更することを通知しました。これは事実上の賃金引下げになる変更でしたので、これに抗議して、トリノのライダーのグループが、この出来高給への変更を拒否してストライキを行いました。配達ライダーのイタリア最初のストライキでした。
2017年7月、ミラノでもDeliveroo社のライダー・グループが、低賃金の上に事故が数多く発生して安全に働くことができない労働条件の改善を求めてストライキを行いました。
異常気象による季節はずれの大雪
それから数か月後、2017年11月13日、異常気象によってボローニャで季節外れの降雪がありました。雪のために、市内での配達は客観的に困難になっていました。ところが、ボローニャで稼働しているプラットフォーム企業の一部は、配達を停止しようとせず、配達労働者の安全を犠牲にしようとしました。これに対して、ライダーズ・ユニオン ボローニャ(Riders Union Bologna)は、凍った道路での配達が労災や健康を害する危険があるとして配達を拒否しました。*
* Eurofound_Riders Union Bologna
ライダーズ・ユニオン ボローニャの声明
これ以上の無権利な配達はありません!
ライダーズユニオン・ボローニャ
今日ボローニャでは、異常な降雪があり、すぐに街を覆い、通りを危険で通行不能にしました。
流通は不可能ですが、大手食事配達会社は、配達労働者のリスクを完全に無視して、利益を上げ続けようとしています。
しかし、今日、別の異常な事実が発生しました。私たちのような多くのライダーが、これらの条件下での労働を自発的に拒否したので、「ホームフードの支配者」、とりわけJustEat、Deliveroo、Sgnamが終日サービスを停止することを余儀なくされました!
たとえ、それが都市の完全な封鎖ではなかったとしても、プラットフォームの冷笑に反対して、私たちの身体の安全を守り、保護を獲得する必要があるという要望を告げるものです。
私たちは労働者です。止まることができないメカニズムの歯車ではありません。
権利のない配達はもうありません!
MAI PIU CONSEGNE
SENZA DIRITTI!
Riders Union Bologna
Oggi a Bologna c’è stata una nevicata straordinaria che ha rapidamente ricoperto la città e reso le strade insicure e impraticabili.
Nonostante la circolazione impossibile, le maggiori società di food delivery hanno preteso di continuare a macinare profitti, ignorando del tutto i rischi per i propri fattorini.
Ma oggi s’e verificato un altro fatto straordinario: moltissimi e moltissime riders come noi si sono spontaneamente rifiutat di lavorare a queste condizioni, costringendo i “signori del cibo a domicilio su tutti JustEat, Deliveroo e Sgnam – a sospendere il servizio per l’intera giornata!
Anche se non si è trattato di un blocco completo in città, si tratta di un risultato importantissimo che preannuncia la generale volontà di opporre al cinismo delle piattaforme la necessit di salvaguardare la nostra incolumità fisica e conquistare le tutele che ci spettano: siamo lavoratori e lavoratrici, non ingranaggi di un meccanismo che non dovrebbe fermarsi davanti
MAI PIÙ CONSEGNE SENZA DIRITTI!
「雪のストライキ」に多数のライダーが参加
この呼びかけに応えて、予想を越える多数のライダーが配達を拒否しました。まさに、「雪のストライキ(snow strike, 伊語 sciopero delle neve)」となりました。このストライキへの参加が非常に多数であり、また、マスコミ報道でも大きく取り上げられたこともあり、市民からの支持が広がりました。、参加と報道の両方で、ストライキは大きく成功しました。当時、ライダーズユニオン・ボローニャ(Riders Union Bologna)は、イタリア各都市のライダーたちと連携して集会を開催するなどの活動を始めていましたので、この「雪のストライキ」は、イタリア全土、さらに欧州諸国からも大きく注目されました。その結果、プラットフォーム企業は、食事配達サービスを中断せざるを得なくなりました。
権利を求めるライダーの連帯
そして、2017年、ライダーたちを組織した団体「Deliveroo Strike Riders」、「Riders Union Bologna」および「Deliverance Milano」は、輸送に関する全国労働協約の適用、雇用の導入を含む、Deliveroo社に対する共通要求書に署名しました。この要求書には、契約満了間近のすべての契約の更新、最低時給7,50ユーロ、週20時間以上の仕事の保証、雨・雪の場合の手当30%引上げ、予定シフトを超える配達をした場合の手当(50%)、スモッグへの暴露の補償、社会保険の適用、自転車と電話の保守費用、ヘルメット付きの安全キット費用などの要求が含まれていました。
ボローニャ市が仲介・主導した政労使交渉
2017年12月、ライダーズユニオン・ボローニャが、ボローニャ市当局に対して、ライダーの窮状を訴える請願を出しました。これを受けて、ボローニャ市当局は、配達ライダーに関連する企業、労働組合などに呼びかけて、市が主導・仲介する形で労使の話し合いの場を設けることにしました。そして、2018年1月12日、最初の市民テーブルが開催されました。会議には、ライダーズ・ユニオン以外に、既存の3大労組(Cgil、Cisl、Uil)、そして、プラットフォーム企業の各代表が参加しました。
最初の会議で、ライダーズ・ユニオンの訴えを受けて前向きに対応してきた民主党所属のヴィルジーノ・メローラ市長(il Sindaco di Bologna Virginio Merola)は、次のように表明しました。
私たちは、市民として、労働者として、そして働く市民社会として、労働がその尊厳性を保持することにあらゆる関心をもっています。プラットフォームが促進する労働が、どのような種類であっても、労働安全環境と労働者の尊厳がなければ、労働というものがまったく変わってしまう可能性があります。行政として私たちができること、それを私たちはします。それは、プラットフォームが憲章に準拠しているか、否かを示すことです。後は、市民と企業の感受性と、ライダーたちに依存しています。ライダーたちは、一人で街を走ることが非難をうけるものでないことを示してきました。そして、彼らと共に歩むことで人々は共同することができるのです。
数人の市評議員が、現場を予備的に調査する作業をした後、最初の憲章草案が提案されました。プラットフォーム企業に、市から議論への参加招集がありましたが、欧州諸国で営業している多国籍企業であるDeliveroo、Foodora、JustEatなどは参加をしませんでした。招集受け入れたボローニャ地域の配達プラットフォーム企業が、この草案に基づいて憲章の内容を議論するために、ライダーズユニオン、労働組合(Cgil、Cisl、Uil)などとの交渉に参加しました。そして、2018年5月31日、協定の最初の署名者となったのは、プラットフォーム企業では、SgnamとMyMenuでした。この2社は、イタリア全体で約300人の労働者を使用しており、そのうち200人がボローニャで働いていました。 また、合意された権利憲章はオープンな形式とされ、交渉に参加した他のプラットフォームも将来署名できるとされています。 同時に、憲章は、他の都市でも利用可能であり、常に均一な保護を行うことを目的として、全国レベルでの議論を広げることが期待されるとされました。
ボローニャ市の「労働評議員」であったマルコ・ロンバルド氏は、同憲章が、「ギグ経済に関する最初のヨーロッパの大都市圏協定であり、食事宅配に関する実験的適用を伴うこの憲章は、ライダーの主張に耳を傾け、市議会と市執行部が描く方向から生まれたものです。」「これは最初のステップです。デジタル労働の他の部門に拡張し、責任ある消費を活用して他のプラットフォームに労働者の権利の重要性を理解させ、これらの保護基準を他のイタリアの都市に拡張しようとするものです。つまり、この憲章は、イタリアにおけるデジタル労働の新しい文化の促進に貢献することを目的としています」と述べました。(ボローニャ市HP「都市ディジタル労働者の基本権憲章」がボローニャで署名された(2018年5月31日))
ボローニャ市:都市ディジタル労働の基本権憲章(全文試訳)
当事者が署名した憲章の全文を以下に試訳しました。目次は右下の通りです。また、章ごとにClickで試訳した条文を参照して下さい。
- 都市におけるディジタル労働の基本的権利憲章
- 前文
- 第Ⅰ章 一般規定
第1条 適用の目的と範囲 - 第Ⅱ章 情報の権利
第2条 情報の義務 第3条 評価システム - 第Ⅲ章 人とその基本的利益を保護する権利
第3条 公正で尊厳ある報酬を受ける権利 第5条 非差別と解約 第6条 健康と安全に対する権利 第7条 個人情報の保護 第8条 接続および切断する権利 第9条 労働組合組織の自由 第10条 争議権 - 第Ⅳ章 デジタル労働に対する行政の支援と憲章の諸原則
第11条 デジタルプラットフォームの労働者と協働者を支援するための具体的な措置 第12条 憲章の原則を適用するための行政措置
前文
シェア経済は消費者と起業家のために新たな機会を創り出す。
ディジタル経済の成長は、新たな労働形態の増加を惹起した。その当事者は、ときには従属労働、より頻繁には独立労働、また、協働的継続的労働という形式でも行われている。多くはないが、労働者保護を回避する目的で行われることもある。
2014年以降のヨーロッパを概観したとき、500万を超える雇用が生み出されてきた。それらの一部は、従属労働と独立労働の二つの対極に位置づけることが困難である。そして、最近のデータによれば、大都市地域でシェア経済雇用が最も高い増加率を示している。
ボローニャ市は、ヨーロッパの方向[COM(2016) 356 最終, シェア経済のための欧州アジェンダ]と一致して、このような新しい事業形式が、責任を伴い持続可能な態様で促進され展開されるときには、国内および欧州の成長と市民の雇用の増加に重要な寄与をすることができると考える。
技術革新は、有意味な競争力と成長に大きく貢献する潜在的可能性がある、新たなビジネス・モデルの開発を刺激してきた。
協働プラットフォームは、労働者と協働者に、雇用機会、柔軟性および収入を組み合わせるビジネス・モデルを代表することができ、消費者に大いに持続可能な価格で、新たなサービスを保障する。
しかし、何の規制もないので、シェア経済は、現行の法的枠組適用に関して諸問題を引き起こす危険を生み出している。つまり、使用者とサービス利用者、プラットフォーム主体やサービス供給者と、別の組織との調整があるとしても、専門職と非専門職の資格ある業務、従属労働者と独立労働者のそれぞれの間における区別を曖昧にするからである。
これにより、適用される諸規定に不確実性が生じ、「灰色の領域」が生じる危険があり、〔そこから〕人の尊厳の保護と職場の安全性の面でかなりの問題が発生する可能性がある。
本挑戦は、都市におけるデジタル労働市場が、法的に雇用関係である否かに関係なく、欧州社会権の柱の「柔軟で安全な雇用」によって認可された(2017年4月26日勧告(EU)2017/761で採択)原則によって認められた、最新の欧州連合の方向に沿って、すべてのデジタル労働者の最低基準を保護する方法で発展することを保障することである。
•公正で尊厳のある労働条件のための基準枠組み(un quadro di riferimento)を提供し、かつ、柔軟性と安全性の間で適切な均衡を取るために制度的レベルで行動することを求める欧州経済社会委員会(2017年1月25日SOC/542)と地域委員会(2017年1月10日意見)の要請を受けようと思い、
•自営業者を含むすべての労働者の社会的保護へのアクセス[C(2017)2610最終およびC(2017)7773最終]と、欧州連合における労働時間に関する解釈コミュニケーション[C(2017)2601最終]に関する社会的当事者の協議結果を共有し、
•2017年12月21日に出された欧州連合の透明で予測可能な労働条件に関する欧州議会および理事会指令[C(2017)0355]の提案を考慮に入れて、
•近年、ヨーロッパの主要都市中心部と同様に、ボローニャ市で労働者の自律組織が、デジタルプラットフォームでの労働、特に食事配達部門に関連する問題や課題をめぐる公的議論で注目を集めている要望を受けて、
市当局は、労働者、労働組合、デジタルプラットフォームと協議して、都市におけるデジタル労働の基本権憲章の採択と促進に取り組んでいる。
この憲章の目的は、デジタル労働市場の適応性と労働提供者の生活・労働諸条件の改善を確保しながら、都市における安全で尊厳ある雇用を促進することである。
一般的目的を達成するための具体的目的は次のとおりである。
1.労働者と協働者の労働条件に関する情報へのアクセスを改善すること
2.労働関係の法的性格に関係なく、すべての労働者と協働者の労働条件を改善すること
3.都市の脈絡において、企業、労働組合、デジタル労働者間の社会的対話を促進すること
4.企業に過度の負担をかけることなく、デジタル労働市場の透明性を向上させること
5.イタリアとヨーロッパで新しいデジタル労働文化の普及を促進すること
第1条 適用の目的と範囲
1. この憲章の目的は、ボローニャ市で活動するデジタル労働者と協働者の労働条件を改善し、より安全で予測可能な雇用を促進すると同時に、都市におけるデジタル労働市場の適応性を確保することである。
2. この憲章は、労働関係の法的性格とは無関係に、1つまたは複数のデジタル・プラットフォームで労働活動を行う、ボローニャの都市領域内で働くすべての労働者と協働者に適用される保護の最低基準を設定する。
3. デジタルプラットフォームは、事業所がどこであれ、商品販売、サービス提供、または商品やサービスの交換または共有のために、電子手段によって人々を遠隔から関連づける企業と見なされる。
4. 憲章の諸規定は、デジタルプラットフォームがサービスまたは商品の提供の特性を決定し価格を設定する、すべての場合に適用される。
5.憲章の有効性と適用を検証するために、市行政当局1は、6か月ごとに定期的に招集される締約団体間の監視会議を設立する。
第2条 情報の義務
1.デジタルプラットフォームは、すべての労働者と協働者に契約運用に関する事前の完全な情報を提供しなければならない。
2.第1項で言及される情報には、以下の事項が含まれる。
a)雇用関係当事者の身元(identità)
b)職場、また、働く地域も明示:固定した職場、または支配的職場がない場合、労働者がさまざまな場所で勤務するか、または、自由に職場を決定できるという原則、そして、その場合には、使用者の居住地を含む
c)労働者に割り当てられる勤務の性質若しくは職種特性、または、労働の特徴若しくは簡単な説明
d)労働関係開始の日
e)一時的な労働関係の場合、その終了日または予定される期間
f)合意された賃金または報酬、ならびに労働者が権利をもつ賃金または報酬の支払周期および支払方法
g)試用期間(がある場合)の長さと条件
h)使用者および/またはデジタルプラットフォームが認めた技能訓練の権利
i)労働関係が終了した場合に、使用は(および/またはデジタルプラットフォーム)および労働者が従うべき、予告期間の長さを含む手続き
j)署名当事者間で合意された範囲と態様で、労働者が労働提供する時間に比例した総報酬時間の最低保証限度
k)第5条による相互解約権の定義
l)割り当てられる労働手段と、労働提供の遠隔管理の可能性を含む、それに関する情報
m)業務遂行中の、デジタル労働者の労働災害および損害、または、第三者への加害の場合における第6条の保険補償範囲、労働災害に関する上限、補償手当支払い方法の説明すること
3.デジタルプラットフォームは、費用請求することなく、労働者に欧州連合または国内法または労働協約の下で提供する必要がある業務遂行のための訓練コースについて通知しなければならない。
第3条 評価メカニズム
1.デジタルプラットフォームは、以下を行う必要がある。
a)業務評価の形成と処理の方法(存在する場合)、およびこの評価が雇用または協働関係に与える影響可能性について、労働者または協働者並びに利用者/消費者に通知する。
b)労働者または協働者に、不正確と思われる業務評価に異議を唱えるための第三の公正手続きを保証する。
c)あるプラットフォームから他のプラットフォームへの移行の場合、労働経験を証明するための適切な文書化へのアクセスを確保する。
第4条 公正で尊厳ある報酬を受ける権利
1.すべての労働者と協働者に対して、プラットフォームは、同等または同等とみなせる業務について比較的に最も代表的な労働組合が署名した産業部門労働協約によって認められた最低賃金表以上の、公正で尊厳ある固定時給を保証しなければならない。
2.すべての労働者は、署名当事者間で合意された範囲および方法で、夜間労働、休暇中の労働、または悪天候などの特定条件で行われる労働に対する手当を保証しなければならない。さらに、労働者や協働者の安全と健康を著しく脅かすなど、異常気象が発生した場合、後者は違約金なしに業務を遂行しない権利を有し、プラットフォームは業務を迅速に停止することを約定する。
第5条 非差別と解約
1.性別、民族、言語、宗教、性的、政治的および労働組合的志向、個人的および社会的条件を理由とするあらゆる形態の差別は禁止される。
2.労働提供者が一定期間働かせることができない場合でも、労働提供者に不利益をもたらす労働機会分配などを含む、不利な処遇をすることはできない。
3.労働関係継続中のプラットフォームによる解約は、十分な予告をもって、理由があり、書面で通知されなければならない。それは、正当な事由または契約上の重大な義務不履行についてのみ可能である
第6条 健康と安全に対する権利
1.デジタルプラットフォームは、関係の法的性格に関係なく、労働者と協働者の健康と安全を保護し、危険を評価、防止、軽減するためにすべての適当な手段を採用する。
2.プラットフォームは、その負担で、業務上の災害と病気の危険と、第三者に対する交通事故損害の危険から、労働者を保護対象とする保険に加入する義務を負う。
3.プラットフォームは、無料で、現行法規が定める適当な道具と義務的安全装置をすべての労働者と協同者に提供し、労働者と協働者がそれらを所有していることを確認する義務を負う。同じくまた、署名当事者と合意した方法で、業務履行に役立つ道具の保守費用の全部または一部を支払う義務を負う。
第7条 個人情報の保護
1.デジタルプラットフォームのすべての労働者と協働者は、まだ登録されていなくても、彼らに関係する個人情報の有無を確認し、そして理解できる形で通知を受ける権利を有する。
2.デジタルプラットフォームのすべての労働者と協働者は、以下の事項について教示を受ける権利を有する。
a)個人データの出所
b)処理の目的と方法
c)電子ツールを使用して実行される処理の場合に適用されるロジック
d)所有者、責任者および指定代理者の身元確認基本事項
e)個人情報が伝達される可能性があるか、または、国家の領域で指定された代理人、責任者もしくは担当者として、それについて知り得る主体もしくは主体の等級(categoria)
3.デジタルプラットフォームのすべての労働者および協働者は、以下のことを受ける権利を有する。
a)情報の更新、修正、または必要があるときは、その統合。
b)法律に違反して処理された情報の取消、匿名形式への変換、または遮断。この情報には、収集され、その後処理された目的との関連で、保持が必要でない情報が含まれる。
c)a号およびb号で言及された作業が、その内容に関しても、情報が通知された人々、または、拡散された人々に通知されてきたことを証明すること。ただし、その履行が不可能であることが明らかな場合、または、保護された権利と明らかに不均衡な手段を使用する場合は除外する。
4.デジタルプラットフォームのすべての労働者および協働者は、全体的または部分的に異議を唱える権利を有する。
a)収集目的に関連した、個人情報処理の正当理由について
b)管理および監視目的での個人情報処理の正当理由について
5.労働者および協働者の意見、職業適性評価に無関係な事実、契約による労務提供の正確な履行に関しては、プラットフォームは、いかなる形態の管理および調査も禁止される。
第8条 接続および切断する権利
1.プラットフォームは、労働者と協働者の無料接続と切断に対する完全な権利を保障する。
第9条 労働組合組織の自由
1.デジタルプラットフォームのすべての労働者と協働者は、労働組合組織を結成し、参加する権利を有する。
2. 労働者たちは、労働時間外だけでなく、年間10時間の限度内で通常の賃金が支払われる労働時間内にも、デジタルプラットフォームが管理する場所で、集会をする権利を有する。
3. 一つまた複数のディジタル・プラットフォームの労働者たちは、ボローニャ市が管理する適当な場所で集会をする権利を有する。同市は、同様に、すべての人がアクセスできる場所に組合掲示板を利用できることにする。
第10条 争議権
1.すべてのデジタル・プラットフォーム労働者は、共通の目的のために集団的に労働を放棄する権利を有する。
第11条 デジタルプラットフォームの労働者と協働者を支援するための具体的な措置
1.ボローニャ市は、この憲章とその原則の普及を促進するのに相応しい資源と空間を提供することに取り組んで、デジタル経済の成長とデジタル労働者の保護を支援する。
第12条 憲章の原則を適用するための行政措置
1. ボローニャ市は、憲章に含まれる諸原則の適用を今後も追求するために、行政的特徴をもつ規制措置を具体化し、憲章の諸原則と矛盾する行為を阻止する義務を負う。
憲章に対するRUB(ライダーズユニオン ボローニャ)の声明
ライダーズユニオン・ボローニャ
2018年6月1日
ディジタル労働者の権利憲章、署名
ライダーズユニオン、労働組合、ボローニャ市、そして、SGNAM-MYMENUがヨーロッパ最初の協定に署名憲章条文は、以下、http://goo.gl/DpU3Rj 参照
以下は、記者会見で私たちが読み上げたスピーチです。今日、私たち全員がここで、諸機関・団体との共同作業の成果である結果を祝うとすれば、職を失う危険冒し、この数か月、生命をかけてきた(私たちの中の)人々のおかげです。スマート経済のガラス(vetrine)の後ろに隠されている搾取の巨大な取り分(fetta)を明らかにすることができるのは、労働者の闘争のおかげです。
実際、私たちの物語は、アプリやプラットフォームよりもかなり前に生まれていました。今日、ヨーロッパ中で何百万人もの人々が、雑用(lavoretto)から雑用(lavoretto)へ移行して生き残らなければならないのは、長年にわたって、労働者に支払わないことを含めて、金を稼ぐためには、すべてが合法であるという考えが、以前から法的に文化的に正当化されてきたからです。その一方、単に仕事を持たない人々の生存を保証するだけでなく、働いた人々が尊厳のある生活にアクセスすることを可能にしてきた福祉制度が解体されてきました。それゆえ、私たちの反抗(ribellione)は、決して単に何ものをも返却すること(restituire)なしに富を作り出す企業に対してだけでなく、むしろ、とくに、人間の生活を単なる商品に貶める(ridurre)ことが不可避であるという論理に慣らされた(assuefatta)社会の思考を拒否することでした。
今日は、単にライダーにとってだけでなく、ボローニャ市にとっても重要な日です。同市は、搾取される側に立つ選択する方法も知っていることを示してきました。近年、孤独を強いられているすべての人が、飢餓のために危険な労働を引き受けることに「イエス」と言います。労働の尊厳を奪われ、ますます非人間的な世界に生き残ることを余儀なくされ、日々の不正や虐待に苦しんでいる人々。機械の所有者に対峙しなければならないのは、私たちだけではありません。評価システムによって圧力をかけられるのは、私たちだけではありません。権利の欠片(かけら)(brandello)も、確実な報酬もなしに働かなければならないのは、私たちだけではありません。ライダーたちが非難する搾取は、あらゆる色の政府によって行われてきた35年間の改革によって生み出された搾取の氷山の一角にすぎません。5月1日、私たちはスローガンを叫びながら街の通りを歩きました。私たちのためではなく、すべての人のために。これを繰り返したいと思います。今日、私たちは、現在の悲惨な状況に身を任せていないすべての人々に、大声で明確なメッセージを送りたいと思います。人は、行動することができ、組織化ができ、闘うことができ、より良い労働条件を得ることができます。
しかし、この憲章の重要性は、今日ではまともな賃金と労働条件では尊厳を持てない労働に尊厳を取り戻したいという意思にはそれほど重要ではありません。その最も価値のある指摘は、常に否定されてきた民主的な砦(presidio)の建設にあります。新自由主義と緊縮財政のこの数年間に、実際、まともな報酬が拒否されただけでなく、企業の反社会的行動が、賃金を支払わないプラットフォームまで、合法化されただけでなく、彼らは社会保険料を支払わず、税金の再分配から資源を差し引きますが、ハンナ・アーレント(Hannah Arendt)の有名な公式を使用すれば「権利をもつ権利」さえ拒否されました。近年の最大の欺瞞は、労働者と企業が同じレベルにあり、労働組合や自律的な労働者組織がなくても経済がうまく機能しているというものです。権利がなければ、より良い経済はありません。より不公平な経済とより不平等な社会があり、その影響と結果は今やすべての人の目前にあります。
しかし、これで十分ではありません。今日私たちが勝利した闘いを祝うために、ここにいるなら、明日私たちは闘争に勝つための道に戻ります:社会に害を及ぼす商売のやり方との闘い。RUB(ライダーズ・ユニオン ボローニャ)は、この憲章を確実にするために全力を尽くします。これは、ボローニャ市で働く人々に保証される良識の最低限のしきい値にすぎません。これは、ライダーの労働条件を具体的に改善できる会社の合意に従います。その実行は私たちにとって十分条件ではなく、むしろ、私たちは、市地域内で営業するすべてのプラットフォームが憲章の原則と憲法第41条の「私的イニシアチブは、社会的有用性と対立し、または安全、自由、人間の尊厳を損なう可能性のある方法で行うことはできない」という規定を尊重するようにさせます。今日、私たちはまた、ここ数ヶ月間に、私たちの闘いと連帯を示している市に、お金を稼ぐためには、働く人々の権利を踏みにじることをいとわない企業への資金提供をやめるように訴えています。私たちが求めているのは、連帯だけでなく認識です。働く人々が尊厳ある生活のために自由に闘うことができない社会は、決して自由で民主的なものとは言えないという認識です。今日、私たちは祝います。明日から、私たちのためではなく、すべての人のために前進し続けます!
Riders Union Bologna, Facebook 2018年6月1日
ボローニャ・ライダー基本権憲章の意義
まず第一に、ボローニャで署名された権利憲章は、配達ライダーの労働環境の問題が、その自主的運動を通じて公的に議論されて「権利憲章」として具体化されたもので、ライダーの地位向上、権利獲得を目指す運動にとって大きな一歩となりました。
2019年秋には、多国籍プラットフォーム企業側の巻き返しと言える対抗的な動きがありましたが、全国労働組合(3大労組)が本格的にライダーを支援して、全国的なストライキなど運動が大きく高まりました。裁判でも、ライダーの労働者性認定、ライダーを管理するアルゴリズムの違法性を認める判決など労働側の主張を認める判決が相次ぎ、2021年前半には、企業側の一部が、ライダーについて全国協約適用などで譲歩を示すことなりました。
ボローニャの権利憲章は、こうしたイタリアにおけるライダー運動の重要な起点となったと言えるでしょう。
第二に、憲章の規定は、内容的に高水準で、州法、国内法などにも多くが採用されています。とくに、労働の現場に基づいた要望を集約した具体的な内容として、個人情報保護、労働条件改善、アルゴリズム規制、時間給制、保険加入以外にも、労働組合組織と争議の権利まで保障している点は大いに注目できます。
憲章自体には、特別な法的効力はありませんが、ボローニャ市という公的機関がかかわり、作成には法律専門家も大きな役割を果たしました。憲章は、立法、司法、そして労働協約にも参照されています。実際、翌年(2019年)、ローマを含むラツィオ州議会で、ライダー保護の州法が成立し、イタリア国会で法改正(いわゆる「ライダー法」)があり、その際、ボローニャの憲章で規定されたライダーの権利が受入られています。
第三に、この憲章は、国際的な社会的人権をめぐる議論の広がりを背景にしていることです。欧州連合(EU)は、2017年に「社会権の柱(pillar of social rights)」を定め、「非標準的雇用」(日本の「非正規雇用」に相当)について従来の「非差別」にとどまらず、新自由主義的傾向が続いた35年間に現れた「個人事業主」や「プラットフォーム労働」などへの保護対象の拡大を課題とするようになりました。さらに、労働関連だけでなく「社会的保護」を含む「社会権」重視へ大きく転換を始めました。憲章は、こうしたEUの動きを踏まえていること、前文で強調しています。
とくに、インターネットの広がりもあって、「オンコール労働」と呼ばれる、使用者が呼び出して労働が行われる不安定で予測不能な働き方が広がっていました。配達ライダーは、まさにそうした「オンコール労働」を自営業形式で行うという問題の多い就労形態でした。イギリスなどでは、オンコール労働の一種として「ゼロ時間契約」の弊害が問題なっていました。これに対して、アイルランドが2018年に「ゼロ時間契約」規制法を定め、EU内でも、関連した規制強化が問題となっていました。そして、このオンコール労働規制のために、憲章でも引用されている「透明で予測可能な労働」規制が問題となっていました(2019年にEU指令として具体化しました)。
第四に、ボローニャの憲章は、韓国でも注目され、紹介されています。一つは、ディジタル・ライダーの保護の一つの先行例として紹介されています(ソウル研究院でのシンポジウムでの紹介)。とくに韓国では、自治体が労働問題に取り組む欧州の事例としてボローニャ市の憲章や、ラツィオ州法が注目されています。その背景には、韓国では、ソウル市が自治体でありながら、積極的な労働政策を推進し、それに続く形で、多くの自治体が、プラットフォーム労働者保護条例を制定しています。また、現在、与党議員が発議した「プラットフォーム従事者保護および支援などに関する法律案」が韓国国会に上程されるなど、イタリアをはじめとする欧州の動向が参考にされています。
第五に、日本では、コロナ禍でウーバー・イーツなどの食事配達労働者が増えて注目されました。しかし、その待遇は、不安定かつ劣悪で、労災保険加入を含め、多くの問題があります。ボローニャ市の憲章は、プラットフォーム労働者保護についての法的、政策的議論で、日本を数周も先行しています。いずれにしても、ボローニャのライダー基本権憲章は、ライダーの法的地位・権利保障強化の運動、既存の労働組合による支援の取り組み、自治体が果たすべき役割など、日本の運動にとっても大きな示唆を与えるものと思います。