第54回 欧州におけるプラットフォーム労働(1)イタリア・ミラノ検察庁は何故、何を根拠に動いたのか

欧州で進む雇用類似の働き方への規制

 日本では、政府・財界が先導して「雇用によらない働き方」を新たに拡大する政策が進められようとしています。とくに、都市部を中心にUber Eatsなど、インターネットを利用したプラットフォームを仲介して働く若者を目にすることが増えてきました。こうしたプラットフォーム労働者は、そのほとんどが、労働法や社会保障法の適用を受けない「個人請負」の形式で働いています。従来の労働組合法や労働基準法などの法的な保護を受けることなく、「労働者」としての権利を行使できない点で多くの問題点をもつ働き方です。これまで、日本の非正規雇用労働者については、①雇用不安定、②差別待遇、③無権利、④団結困難・孤立という重大な弊害がありましたが、「雇用によらない働き方」は、非正規雇用労働者と共通した弊害をもつだけでなく、それ以上に不利な働かせ方という点で、私は「究極の非正規雇用」であると考えてきました。*

2019年10月30日のAsu-net第30回つどいは、この「雇用によらない働き方」をテーマに取り上げました。このエッセイは第25回第26回第27回で「雇用によらない働き方」について日本、欧米、韓国の動きを紹介しました。その後、「雇用によらない働き方」の広がり、様々な実態を集め、さらに、関連するILOや各国動向を要約した書物、『ディスガイズド・エンプロイメント 名ばかり個人事業主』(学習の友社、2020年7月)を刊行しました(エッセイ第44回参照)

 欧州では、最近約5年間、プラットフォーム労働者の権利保護が働き方をめぐる重要問題の一つに浮かび上がっています。私は、これまで、個人請負労働者の権利実現運動が広がっている国として、アメリカのカリフォルニア州と韓国の状況を取り上げて紹介してきました。しかし、欧州諸国では、2015年頃から「プラットフォーム労働」が広がる中で、従来、労働運動の中心にいた産業別労働組合も徐々に「プラットフォーム労働」に注目し、その労働者としての保護が課題として取り上げて目覚ましい成果があがっていることを知りました。とくに、ここ数年、フランスの破毀院(=最高裁)で労働者性を認める判決が出され、イタリアの破毀院も労働者としての保護を認める判決が出され、ボローニャ市の憲章、ラツィオ州法などでの労働者保護の動きが現れています。*

 *これについては、先日、刊行されたばかりの論考「フリーランス・プラットフォーム労働をめぐる問題点と権利運動の課題」月刊全労連2021年4月号で紹介しました。最近では、イギリスの最高裁判所がUber運転手が「労働者(worker)」であるという画期的な判断を下しましたが、Uber側は英国の運転手7万人に「労働者(worker)」の地位を認める方針を示した、ということです(朝日新聞2021.3.18)。ただし、このイギリスの「worker」は、労働法や社会保障法上の権利がすべて認められる「従業員(employee)」とは違うことに注意する必要があります。
 他方、スペインが最高裁判決を受けて法律でプラットフォーム労働者保護の法律制定をしようとしていると報道されています。とくに、EU自体で、プラットフォーム労働者保護の指針を出すための議論が始まっており、数週間後にその結果が出るとのことで大いに注目しています。

衝撃的なイタリア・ミラノ検察庁の措置

  EUやイタリアの動きに関心をもって調べ始めていた私を驚かしたのは、3月2日に投稿された今泉義竜弁護士のTweetでした。そのTweetでは、イタリアのミラノで検察と労働監督官が食事配達プラットフォーム4社に対して、6万人の配達員を正社員として雇用するとともに、健康・安全法規違反を理由に、罰金7億3千万ユーロ(日本円で約943億円相当)の支払を命じたという記事を引用して、「イタリアの検察と労働監督官、すごい仕事をしますね」とコメントされていたのです。

 このTweetで引用された記事(後で調べると、しんぶん赤旗の3月1日の記事でした)では、イタリアの進歩的新聞 la Repubblicaが紹介されていたこともあり、私の目を引きました。早速、イタリアの検察官が、裁判官とともに「司法官(magistrato)」という身分保障を受ける存在であることなどを紹介するRetweetをしました。そして、この記事についてさらに詳しく調べてみることにしました。*

 *私は1971年、大学院でイタリア労働法をテーマにすることを決めてイタリア語の勉強も始めました。当時、イタリア労働運動は戦後、最高潮に達していて、69年の「暑い秋」という大闘争を経て、1970年5月「労働者憲章法」と呼ばれる画期的な法律が制定されたところでした。年金改革を含めた政治課題にも取り組み、政治ストライキが合法であるとする憲法裁判所判決も出されていました。イタリア労働法は、当時の私には、とても魅力的な研究対象でした。
 その後、1988年4月-89年3月、イタリアのボローニャに1年間、在外研究の機会を得ました。既にイタリア労働運動は下降気味でしたが、過労死が広がり、派遣法が制定されていた日本とは違って、バカンス(有給休暇)は憲法上の権利として広く定着し、さらに、実態調査をした北部ブレッシャの製鉄所には「違法派遣(偽装請負)の間接雇用は誰もいない」という状況がありました。詳しくは、『労働法を考える』(新日本出版社、2007年)参照。

 最近、宮前忠夫氏は、「欧州、とくに西欧では、1980年頃に新自由主義的攻撃が始まって以来、それ以前の時期と比べての労働者組合の組織率や労働協約が適用される労働者の比率の低下に見られるように、全体としては、『労働者階級から資本家階級への、力のバランスの一大移転を経験した』と言われてい」ると指摘されています(「コロナ危機への欧州労働者・市民の取り組み」『経済』2021年1月号、73-74頁)。そして、イタリアでも政治・社会状況が大きく変動し、新自由主義を志向する政権が生まれ、労働運動、労働法が大きく後退することになりました。派遣法が制定(98年)され、労働法の規制緩和が進むことになったのです。

 このミラノ検察庁の措置については、ロイター、AP通信をはじめとして、欧米諸国のマスコミ報道でも大きく取り上げられていることが分かりました。*
 報道によると、ミラノ検察庁は、食事を家庭に運ぶためにイタリアの多くの都市で駆け回っている、少なくとも6万人のライダーたち(二輪車配達員)は、労働者が安全保護などがない一方、低賃金で搾取されているとして、ディジタルプラットフォームであるGlovo, Uber Eats, Just Eat そして Deliverooの4社に、7億3300万ユーロの罰金(ammenda)を科し、そして、全員を2021年2月24日から90日以内に、独立事業者から労働法や社会保障法上の保護がされる「準従属労働者」に移行させることを求めています。**

* Milan prosecutors order food delivery groups to hire riders, pay 733 million euros in fines(Reuters 2021.2.25)
**イタリアでは、労働法・社会保障法が全面的に適用される労働者(=従属労働者)と、独立自営業者の間に、準従属労働者としての「連携継続協働契約(Collaborazioni coordinate e continuative-略称co.co.co.)」という中間的存在が認められてきました。この中間的形態で働く労働者は従属労働者と異なり、使用者責任を軽減するものとして企業による濫用が問題となり、法改正が相次ぎ、とくに、委託先の労務管理を受ける場合には、自律性が弱いとして、従属労働者に類似した法的保護を受けることになってきました。とくに、2020年1月24日の破毀院判決は、co.co.co.については、解雇保護を含めて従属労働者と同様な保護があると判決しました。脇田滋「フリーランス・プラットフォーム労働をめぐる問題点と権利運動の課題」月刊全労連No290(2021年4月号)参照。

イタリアにおけるプラットフォーム労働の広がりと劣悪労働条件

 イタリアでは、INPS(全国社会保障公社)の報告書によれば、2017年に国内で稼働しているプラットフォームは50社あり、そのうち17社には従業員がいました。一部は急速に成長しており、Banca d’Italia(イタリア銀行)によれば、食事配達プラットフォームの年間成長率はほぼ250%であり、他の労働ベースのプラットフォームの成長率はほぼ95%とされていました。そして、2017年にはイタリアに753,248人のプラットフォーム労働者がいました。こうしたイタリアのプラットフォーム労働力の構成に関しては、ミラノにおけるライダー調査では、大多数が男性(97%)、国籍はイタリア以外(61%)であり、学生以外(85%)、契約期間は通常数ヶ月続く(50%)でした。しかし、多くのライダーは、どのような法的規制が自分たちの契約に適用できるかを知らず、また、報酬は、出来高給で(距離または配達数に従って)支払われていました。*

*ETUI, The platform economy and social law : Key issues in comparative perspective (2019)におけるItalyの項(Silvia Borelli教授執筆)参照。

 2018年~19年にかけてイタリア全国の都市で、プラットフォームを介して働く、食事配達ライダーを巻き込んだ交通事故が頻発しました。ASAPS(交通警察の友協会)の調査(2019年10月25日更新)によれば(下表)、全体で32件の事故について、左から、①事故発生日、②都市、③年齢、④結果(DECEDUTOは「死亡」、FERITOは「負傷」、PROGN.RIS.は「予後未定」、amputazione gambaは「足切断」、asportazione milzaは「脾臓摘出」)、⑤二輪車種類(Motocicloは「バイク」、Biciclettaは「自転車」)の順に整理されています。

 このようなライダーの事故多発をめぐって、世論の批判が高まり、2019年7月からミラノ検察庁が動き出しました。安全無視など、食事配達のプラットフォーム労働についての全国調査を、国家警察(carabinieri)の労働保護グループと共同し、INAIL〔全国労災保険協会〕とINPS〔全国社会保障公社〕の協力を得て実施することになりました。その調査は、交通安全だけでなく健康、業務遂行方法、労働関係および保障された保護形態を、労働者の声を通じて正確に把握するために、イタリア全土に拡張されて実施されました。
 国家警察(carabinieri)は、イタリアでは古風な独自の美しい制服ですぐに分かる存在ですが、ライダーの直接的証言を通じて、彼らの実際の労働条件、業務遂行方法、保障される保護の形式が、安全や健康面でどのようなものであるかを明らかにするために食品配達に関わるすべての県の道路上で展開しました。
 初めに紹介した新聞記事では、「労働監督官」が検察官と一緒に動いたとありますが、おそらく、この国家警察の労働保護グループのことだと思います。*

*日本では労働法違反については、まず、労働基準監督官が担当することになりますが、イタリアでは労働監督官は新自由主義政府の下で2006年から新たな募集がなく、きわめて少数です。そのため、増加するプラットフォーム労働の取締りをすることは到底できません。その代わりに検察官、国家警察、さらには財務警察などが企業の違法行為取締に当たっているのです。これは、スペインではプラットフォーム労働で労働監督官が大きな役割を果たしているのとも大きく違っています。The platform economy and social law : Key issues in comparative perspective (2019)参照。

 このように、イタリアのライダー(二輪車配達員)の搾取システムに関する1年以上の調査の一方、ミラノ検察庁は、Uber Eatsに対する刑事手続き、イタリア独自の司法管理手続きを進めました。これについては、次回のエッセイで紹介することにします。
 今回は、ミラノ検察庁が、プラットフォーム労働を取り調べる根拠となった「違法仲介・労働搾取罪」について、その内容と法制定の経過について、以下のとおり調べてみました。

違法雇用(caporalato)に対する取締り

 ミラノの事案で注目されるのは、プラットフォーム企業の刑事責任が問題とされて、検察官(司法官)が登場していることです。各国でプラットフォーム労働をめぐる訴訟が増えていますが、多くは「契約の打ち切り」や最低賃金などの適用を受けていないのでその適用を争うものです。検察や労働監督行政からの積極的な動きは少なく、したがって刑事責任を問う事例は少なかったと思います。ただ、労働法や社会保障法の適用回避には罰則が定められていることが少なくないので、使用者の刑事責任が問題になることは何ら不思議なことではありません。

違法仲介・労働搾取罪

 ミラノ検察庁が、プラットフォーム企業の責任を問題にしたのは、「違法仲介と労働搾取」罪を定める刑法第603条の2(art. 603 bis Codice Penale)違反が根拠となっています。
 第603条の2は、次のように規定しています。
 1.事実がより重大な犯罪を構成しない限り、以下の者は、1年から6年の禁固(reclusione)、そして募集労働者1人につき500から1,000ユーロの罰金が科せられる。
  1)労働者の窮乏状態を利用して、搾取(sfruttamento)条件で第三者のために働かせる目的で労働者を募集する者
  2)労働者を搾取条件にさらし、その窮乏状態を利用して、1)で言及された仲介活動を通じて、労働者を利用、雇用または使用する者
 2.もし暴力または脅迫によって行われる場合には、5年から8年の禁固、および各1000ユーロから2000ユーロの罰金が適用される。 

 この603条の2の目的上、次の条件の1つ以上が存在することは「搾取」の指標となるとされています。
 ①全国レベルで最も代表的な労働組合によって規定された全国または地域の労働協約とは明らかに異なる方法で、またはいずれにせよ実行された労働の量と質に釣り合わない方法で賃金を繰り返し支払うこと。
 ②労働時間、休憩時間、週休、義務休息、休日に関する規則に繰り返し違反すること。
 ③職場における安全と衛生に関する規則に違反すること。
 ④労働者を劣悪な労働条件、監視方法、または住宅状況に置くこと。

 さらに、以下の①~③は、特別加重事由となり、3分の1から2分の1の刑を加重する
 ①募集された労働者の数が3人を超えている事実。
 ②募集された主体の1人以上が非就労年齢の未成年者である事実。
 ③実行される業務の特性と労働条件を考慮して、搾取された労働者を重大な危険の状況にさらす行為を行ったこと。

 刑法第603条の2の2011年改正、2015年改正

 この刑法第603条の2の規定は、2011年8月13日の法律命令第138号によって導入され、2011年9月14日の法律第148号に転換されたものです。さらに、2016年の法律第199号によって修正され、2016年11月4日に発効しています。
 不法仲介の「仲介(intermediazione)」とは、他の第三者、仲介者に向けられる事業者の行為を指し、この仲介者から派遣された他の主体から単純労務提供を得ることを目的とするものです。
 また、「仲介」「搾取」の受動主体(労働者)が、絶対的貧困状態になくても、自らの基本的必要を満たすことができなくなるなど、一時的であっても非常に危機的状況にある場合に窮乏状態が発生すると解されています。*

*この違法仲介と労働搾取罪(刑法典第603条の2)については、以下のサイトを参照しました。
https://www.brocardi.it/codice-penale/libro-secondo/titolo-xii/capo-iii/sezione-i/art603bis.html

 こうした「違法仲介と労働搾取」を独自の犯罪とする規定が制定された背景には、外国人の肉体労働者に対する不当な扱いが広がり、それに対して労働者とそれを支援する労働組合の闘いがありました。とくに、1990年代以降、主に、アフリカや中東諸国からイタリアに外国人の移民労働者が数多く流入し、南部の農村地域でオレンジやオリーブを収穫するために低賃金で雇われました。彼らは、主にテントや廃工場に住まわされ、基本的な住民サービスが保障されない状況で、農業や建設作業に従事していたのです。この労働者たちは、人材ブローカーである、いわゆる「手配師(caporali)」を通じて、農場や企業に派遣されることになりました。*

*この労働搾取罪について調べていると、JILのHPで、「労働搾取に対する法案の承認」(2007年1月)という記事を見つけました。その詳細について調べていますが、まだ、確認できていません。

1)2011年ロサルノ事件と法改正

2010年1月7日、イタリア南部のレッジョカラブリア州のロサルノで、何者かが2人のアフリカ人労働者を射殺する事件が発生しました。これに憤った外国人労働者たちが怒って、住民と対立し、警察が介入する事件となりました。この事件をきっかけに、違法仲介、違法雇用と、労働者たちの搾取や劣悪状況が社会問題化し、外国人労働者の生活や労働条件にイタリア全体が注目するエピソードとなりました。

Fenomeno del caporalato di Rosarno, la riflessione della Cisl
„Fenomeno del caporalato di Rosarno, Cisl: “Serve uno status di legalità per i lavoratori” ロサルノの違法雇用で働く労働者のテント村

 そして、1年後の2011年1月、建設労働者と農業労働者をそれぞれ代表するCGILの2つの労働組合、FilleaとFlaiが、「カポララート(caporalato 違法雇用)の停止」キャンペーンを開始し、労働者を搾取と奴隷化にさらす者を起訴するという、違法雇用罪を刑法に含めるよう政治勢力に要請しました。
 2011年以前は、違法雇用(caporalato)は厳しい罰則で罰せられていませんでした。2003年の「ビアジ(Biagi)」改革で違法な仲介(第1レベルの違法雇用)と違法不正介入(第2レベルの違法雇用)の2種類の犯罪が導入されましたが、第一は、最大6か月の拘留(arresto)と最大7,500ユーロの罰金で罰せられ、未成年労働者が関与した場合には罰金が加重されるだけでした(最大18か月の拘留と45,000ユーロの罰金)。第2の犯罪は不正規な労働者ごとに、また、就業日ごとに70ユーロの罰金を定めるだけでした。

 世論の高まりと、社会運動の広がりを受けて、2011年7月26日、上院で民主党(コロンバ・モンジェロ上院議員が署名)は、「労働搾取に基づく労働力の違法な仲介現象を罰することを目的とした措置」と題する法案2584を提出しました。
 労働総同盟(CGIL)を中心に各地でデモが行われる一方、EUは指令52で、加盟国が法的な居住許可なしに第三国の労働者を雇用する使用者に対して最低限の規則を導入する義務を定めていたので、イタリアでの外国人労働者搾取の問題が国際的にも注目されることになりました。
 こうした背景から、2011年の改正で、罰則が5年から8年の禁固に、雇用された労働者1人につき70ユーロの罰金から、1,000ユーロ~2,000ユーロの罰金にする法改正が行われることになりました。とくに、違法仲介者だけでなく、使用者企業や個別使用者の責任を追及することを可能とする「違法仲介・労働搾取」罪が刑法典に導入されることになったのです。*

Il reato di caporalato, cos’è e come funziona(lavialibera 2020.9.2)

2)2015年事件と2016年法改正

 2011年法改正があったにもかかわらず、外国人労働者の「違法雇用」をめぐる事件が相次いで発生しました。ラティーナ(ラツィオ州)では野外労働で搾取されいたインド人労働者約4千名が抗議活動を行い、ターラント(プッリャ州)やメタポンティーノ(バジリカータ州)など南部イタリア各地で過酷な労働に従事していた外国人労働者が死亡する事件など、違法雇用(カポララート)が依然として犯罪現象として存在しており、約40万人の搾取された労働者がいることが指摘され、大きな社会問題となりました。
 こうした背景の下で、2015年に国会に、違法雇用との闘いの効率を高めることを目的に刑法第603条の2の改正法案が提出されました。そして、改正によって、法律の適用可能性が拡大され、従来あった労務管理(労働組織)という文言は削除され、労働力を募集することだけでも犯罪を構成することになりました。従来、違法雇用には「暴力、脅迫、威嚇の存在」が必要でしたが、それが不要となり、「暴力、脅迫、威嚇の存在」があれば、刑が加重されることになりました。また、労働者を働かせる使用者について、「窮乏状態」を利用することを制裁する可能性が新たに導入されました。とくに、外国人労働者の自由を危うくする可能性のある「潜在的に不可逆的な窮乏状態」を利用することが制裁の対象となったのです。したがって、労働者の搾取から利益を得る連鎖の一つの輪であっても罰せられることになり、適用対象が大きく広がることになりました。*

*この「違法雇用」については、イタリア在住のヴィズマーラ恵子さんの「『違法な雇用』カポララートの実態、搾取された季節労働者」(2020年9月13日)というブログ記事を見つけました。コロナ禍でイタリア人労働者を確保できない中、東欧諸国からの外国人労働者がミラノ郊外の農場で「違法雇用」の状況で働いていることが、財務警察や検察庁から摘発されたという興味深い内容です。とくに、「検察庁は、土地と建物を含む53の資産、25の計器用車両、および3つの経常勘定からなる会社のすべての資産の差し押さえを行い、施行されている法律に準拠した事業継続を目的とした司法管理者の指名を命じた。」という指摘は、UberEatsなどに対する事案とも重なるものできわめて興味深いものです。

 日本でも、外国人労働者が働く状況には劣悪な場合が少なくありません。とくに、技能実習生制度は、こうした劣悪状況を生みだす問題のある制度であることが、以前から指摘されています。イタリアでは、これらを「違法雇用・労働搾取」として刑事罰で厳しく取り締まる政策が拡大しています。日本の外国人労働や非正規雇用、劣悪労働の問題を考えるときにも大いに参考になると思います。とくに、注目する必要があるのは、インターネットを介した新たな働きとされる「プラットフォーム労働」についても、「違法雇用・労働搾取」罪の適用がされていることです。その点でもイタリアの最近の状況は労働の現実を直視した政策動向として大いに参考になると思います。

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