「無労組政策」を進めるアマゾン
1994年に会社が設立されて以来、約28年間、アマゾン社には労働組合がない状況が続いてきました。正確な表現では、アマゾンのアメリカにあるすべての職場に、全国労働関係法(NLRA)に基づいて団体交渉権を有する労働組合代表者は存在しなかったのです。アマゾン社は、従業員が約110万人とされ、ウォルマート社に次いでアメリカ国内で第2位の巨大な民間企業=使用者になっています。しかし、そのアマゾンのすべての職場に労組が皆無だったことは驚くべきことです。
アマゾン社の労働条件が良くて労働組合を作る必要がなかったからでしょうか?
たしかに、アマゾンの労働条件は、最低賃金より時給が高く、医療保険、有給出産休暇など、他の企業に比べて劣悪とは言えません。しかし、「前回のエッセイで紹介したように、従業員の働き方に対する過度とも言える厳しい統制・監視、高い負傷率など、その過酷さが際立っています。それは、異常とも言える高い離職率に現れています。離職率150%は、1年もたず、8ヵ月で従業員がすべて入れ替わるという、信じ難いものです。こうした離職率の職場では、従業員には時間的・精神的な余裕がないことから、労働組合を結成することができなかったと推測できます。
ただ、そうした状況に加えて重要なことは、アマゾン社は、「反労組政策」を会社経営の基本原則として従業員に対応してきたことです。アマゾンの創業者であるジェフ・ベソス氏は、アマゾン社が従業員に業界最高の待遇をしており、望むなら社員がいつでも会社側に直接要求事項を言えるので、労組という「仲介人」は必要ないという立場を繰り返し表明してきました。*
*30年間「無労組」固守してきたアマゾンで初労組誕生(30년간 ‘무노조’ 고수한 아마존서 첫 노조 탄생…“세상 바뀌었다는 것 알려줄 것”)京郷新聞2022年4月3日
こうした会社経営者の反労組の姿勢と、時間的・精神的余裕がなく、継続して働く従業員が少ないために、労働組合を結成する条件がないことは、アマゾンだけでなく、近年、アメリカの労働組合運動の低迷が長く続いている背景になっていると思います。とくに、アメリカ発のグローバル企業は、共通して労働組合に対して否定的な対応をしてきましたが、中でもアマゾンは反組合的な姿勢がきわめて強い点で際立つ企業ということができます。
ただ、最近になって、アメリカでは、とくにサービス業を中心に、生活賃金や最低賃金15ドルなどを実現しようとする、新たな労働組合運動が台頭してきました。* そうした中で、アマゾンでの労働組合結成の動きが現れていることに大いに注目することが必要です。
* Asu-netでは、第13回つどい(2010年10月)で「アメリカの社会改革と労働団体の役割」をテーマにジェームズ・ハインツ氏に、アメリカの労働事情と、労働組合と労働団体のリビングウエイジ(生活賃金)運動など新たな動きについてお話をいただきました。また、森岡孝二の連続エッセイ(2016年2月)「第305回 アメリカで盛り上がる最低賃金15ドルの実現を目指す若者の運動」参照。
アマゾンでの組合結成の動き
アメリカでは、サービス業で新たな労働運動の台頭が注目されますが、その主体となったのは大手労組(SEIU、RWDSUなど)で、多様な産業部門で労組の組織化を進めてきました。アマゾンも例外でなく、いくつかの労組が外部からアマゾン職場での組合結成に取り組んできました。
とくに、コロナ禍で宅配業務が格段に過重になるなかで労働条件改善の必要が高まったこと、大統領選挙で労働組合への支持を表明した民主党のバイデン氏が当選したこともあって、アマゾンでも労働組合結成の気運が高まってきたのです。
アマゾンは、全米各地に100を超える大型倉庫(フルフィルメントセンター)をはじめ多様な種類の配送センターを有しています。年々増加し、2020年には19,190に達しているとされています。*
*詳しくは、Amazon warehouses are located near big cities, Jan 20, 2022
アラバマ州 ベッセマー大型倉庫での組合結成選挙
その中で、アメリカ南東部のアラバマ州ベッセマーにある、約6000人が働く大型倉庫(略称:BHM1)で、2020年夏、一部の従業員が厳しい労働環境について「小売・卸売・百貨店労組(Retail, Wholesale, and Department Store Union – 略称:RWDSU)」に相談したことから、労働組合結成の動きが始まりました。これは、米国内のAmazonの大規模施設として初めての組合結成の動きでした。*
*RWDSUは、1937年設立の労組で、小売、食料品店、家禽加工、乳製品加工、穀物加工、ソーダボトラー、ベーカリー、医療ケア、ホテル、製造、公共部門を含む幅広い業界、警備員、衛生設備、高速道路、倉庫、建築サービス、流通などの労働者の約60,000人を代表しています(Wikipedia)。なお、RWDSUは、ユニ・グローバル・ユニオン(Uni Global Union)に所属しています。
RWDSUは、ベッセマーの配送センターで働く労働者の署名3000人分を集め、NLRB(National Labor Relations Board 全米労働関係委員会。組合結成を監督する、連邦政府の独立行政機関)に、組合結成投票実施を申請しました。
NLRBは、2021年1月15日、Amazonに労働関係法(National Labor Relations Act 全国労働関係法。略称:NLRA)に基づいて組合選挙の実施を通告しました。投票は、2月8日に郵送で行われ、開票は3月30日に開始されました。
投票権を持つベッセマー倉庫の労働者は5,805人でしたが、最終の4月10日までに投票したのは、3,215人に過ぎず、棄権者がほぼ半数でした。投票結果は、労組設立に賛成したのは738人に止まり、反対はその2倍以上の1798人でした。結局、組合結成に賛成したのは、従業員全体の16%に過ぎず、84%は「反対」または「棄権」に回ったのです。
前回エッセイで紹介したように、アマゾンの配送・倉庫職場での働かせ方は、ユニ・グローバル・ユニオン(Uni Global Union)」が「パノプティコン(円形牢獄)」と呼んだように、ゆとりのない職場では「小便ボトル」が必要とされるほどで、大きな社会問題となっていました。ベッセマー倉庫での働き方が、他のアマゾン倉庫と変わらないものであったと思われるのに、何故、このように組合結成への賛成票が少なかったのでしょうか? とくに、2対1もの大差で組合側が敗北したことは、理解し難い結果として全米だけでなく、世界各国で報道されました。*
*「焦点:アマゾン労組結成、複合要因で圧倒的な敗北」(ロイター2021年4月12日)
同時期にコロナ禍で過重になった配送業務は、各国で労働側の反発を招いていました。とくに、ドイツやイタリアでは、アマゾンで働く労働者たちがストライキで闘っていました。同じアマゾンで働く労働者が、欧州では、労働組合に団結して会社側と集団的に対抗しているのに、アマゾン倉庫が集中するアメリカでは、何故、どの職場でも労働組合が結成できないのかという疑問です。
アメリカにおける時代遅れの法制度と組合結成の困難
労働組合結成をめぐって、欧州諸国とアメリカとの大きな違いがグローバル企業アマゾンを通じて、改めて可視化されたのです。そこで、以下、アメリカにおける労働組合結成にはどのような困難があるのか、アメリカの独特な組合法制度について基本となる点を振り返ってみることにします。
組合の自由はあっても、団体交渉は特別手続き
アメリカでは、欧州諸国の憲法や日本国憲法28条が団結権などを保障するのとは違って、労働者の集団的な権利が憲法で保障されていません。そのために、アメリカでは、集団的労働関係だけでなく、個別的労働関係での労働法はきわめて貧弱です。また、アメリカは、結社の自由や団結権保護をはじめ、ILOの基本条約についてもほとんど批准していません。こうしたことから、労働法の勉強を始めた若い頃の私は、「アメリカは労働法の貧弱な国」という認識を持っていました。
これに対して、アメリカでは、事実上、労働組合は企業の外で結成されるのが原則となっています。実際、製造業などの伝統的労組だけでなく、最近、サービス産業で組織を拡大・発展させているSEIU(Service Employees International Union サービス従業員国際労働組合)などの労組は、企業外で組織され、さらに国際的な広がりをもつ大きな労働組合組織です。
しかし、アメリカでは、欧州諸国のように、使用者が、全国規模の産業別の労働組合組織と交渉、労働協約締結をするという集団的労使関係は発達していません。そうした状況で、アメリカでは労働組合の結成は自由にできますが、企業=使用者に、労働組合や団体交渉などへの強い嫌悪が際立っており、ILOやOECDなどが求める「社会的パートナー」としての労使団体による「社会的対話」が行われていません。
憲法上の保障がない、弱い(weak)労働組合法
日本では、どんなに小さな労働組合であっても、憲法28条の定める団結権、団体交渉権、団体行動権(争議権)の主体となることができます。使用者は、これらの集団的権利の行使を拒否することができません。また、労働組合法では、より具体的に不当労働行為の救済手続きなどを定めています。
アメリカでは、労働法の形成はきわめて困難な道を歩みました。1929年の大恐慌で多くの労働者が企業倒産や解雇によって失職し、労働組合を作って対抗することになりました。その結果、1930年代はじめに、資本からの厳しい組合攻撃を受けて、労使が激しく対立することになぅたのです。
こうした中、当時の共和党政権は、使用者側と手を組んで組合をつぶし、軍隊まで使ってストライキを中断させる反組合政策をとりました。しかし、1933年3月からの民主党のルーズベルト政権では、1935年に「ワグナー法」と呼ばれる、全国労働関係法(NLRA)が制定されました。同法は、全国労働関係委員会(NLRB)を創設し、その管理の下で、職場集団を単位として団体交渉の労働側代表者を所属従業員全員の選挙で選出するという独特な手続きを定めました。つまり、連邦政府を中立の立場に置き、労働者が組合結成に投票すれば、使用者はその組合を受け入れるよう義務づけることにしたのです。そして、1938年の公正労働基準法は、これを基礎として、連邦最低賃金、8時間労働、残業代、児童労働の禁止などを法制化しました。その後87年を経過して、いくつかの重大な修正がありましたが、基本的には、この連邦法の規制内容が現在まで維持されているのです。
第2次大戦後、ドイツ、フランスをはじめとする多くの欧州諸国では、労働組合の集団的権利を憲法上の権利として認め、膨大な労働法令を制定してきました。とくに、ILO(国際労働機関)は、結社の自由(87号)や団結権(98号)条約を最も基本的な条約としていますが、アメリカは、現在までこれらILO条約を批准していません。要するに、アメリカは、いわゆる「先進国」の中で、格段に「弱い(weak)労働法」の国として際立っているのです。
とくに、新自由主義的考え方が台頭した1980年代以降、使用者側の強い態度が際立ってきました。組合が団体交渉権を得ることがないよう、実際上、NLRAが定める選挙手続きを骨抜きにするような反組合的対応(とくに、反組合的なコンサルタント、法律事務所の利用など)を強めてきたのです。本来、NLRBが、反組合的な使用者の対応を不当労働行為として取り締まる機関です。しかし、その委員が選任する政権(共和党か、民主党か)によって大きく傾向が異なって、NLRBの決定は大きく揺れ動き、労働者にとっては頼りない存在になっているのです。
「組合のない職場」での組合結成手続き
NLRBは、現在も、そのホームページに、「全国労働関係法の下での従業員の権利」を掲載しています(日本語での「従業員の権利 全国労働関係法の下では」も参照できます)。
また、アメリカ政府は、いくつかの行政機関が共同して労働者向けに権利を紹介するサイトを設けていますが、その中に「組合のない職場(Non-Union Workplace)」で組合を結成する」という解説を掲載しています。この記事の内容を基に、NLRAの定める内容を要約してみます。
(a)職場で組合に代表されるか、否かを選択する権利
全国労働関係法(NLRA – the National Labor Relations Act)は、従業員(employees)が組合の代表(union representation)を選ぶ権利と拒否する権利を保護します。
この権利を保護するために、全国労働関係委員会(NLRB)は、従業員が組合に代表されることを望むか否かを決定するために、従業員の間で秘密投票選挙(secret-ballot elections)を実施します。
選挙で過半数の票を獲得した組合は、従業員の交渉代表(the employees’ bargaining representative)として認定され、関連する労働集団(relevant workgroup)の従業員のための排他的交渉代表(the exclusive bargaining agent for the employees)として使用者に認められなければなりません。使用者(企業)が組合と交渉しない場合、その時点で、不当労働行為(an unfair labor practice)となります。
(b)組合のない職場で組合を結成するための手続き
①手続きを開始するには、あなたの地元のNLRB事務所に選挙申請書(election petition)を提出する必要があります。
②申請書と一緒に、あなたは従業員の少なくとも30%が、あなたの選挙申請書を支持していることを示す必要があります。
③通常、この支持は、認証カード(authorization cards)、または、あなたの同僚が署名した申請書で行われます。
④NLRB職員は、その後、あなたの特定のワークグループの選挙が適切であることを確認し、秘密投票選挙の時間、日付、および場所を設定するための手順を実行します。
⑤一般的に、選挙は請願書が提出された後、できるだけ早い時期に行われ、対面、郵送、またはその両方の組み合わせで行うことができます。
⑥組合が選挙で過半数の票を獲得した場合、NLRBは組合を排他的団体交渉代表者(exclusive collective-bargaining representative)として認定します。
⑦なお、①~⑦のNLRBが実施する選挙とは別に、使用者が任意で交渉代表組合を承認する第二の道も認められています。
不当労働行為を誘発する時代遅れの組合法
以上のNLRAでは、団体交渉を、事実上、企業別交渉に限定しています。産業別交渉は対象とされません。しかも、NLRAによる規制は、きわめて弱い(weak)ものです。交渉代表選出ができなければ、事実上、労働組合は無いことになります。これでは、組合を嫌う経営者の反労働法、反労働組合的な姿勢が強まるのが当然です。いわば現行のアメリカ労働組合法は、使用者の不当労働行為を誘発する、きわめて不十分な法規制ということになります。
実際、近年、アメリカの企業では、「反労働組合」的な労務管理が強まっており、non-union(無労組)、union-avoidance(組合回避)、union-free(組合からの自由)をかかげて、企業のために反組合活動をするコンサルタントなどの専門集団が企業・産業化しています。
こうしたコンサルタントなどが「組合潰し(union busters)」として、組合結成を妨害する弊害が大きな問題となっています。アマゾンでの組合選挙は、そうしたアメリカ雇用社会の反労働人権の現実を浮かび上がらせることになったのです。
これには、アメリカ社会の「分断」が背景になっています。政治的には共和党が「反組合」的な傾向が強く、共和党政権では、NLRB委員などの政府委員も組合の権利を認めない傾向が強く、なかには、反組合コンサルタント企業所属者が選出される例もあるようです。そして、共和党が多数の保守的な州では、州法で労働組合の力を弱める「労働権(right to work)」規制が導入され、労働組合の影響力が大きく後退する傾向が強まっています。*
*詳しくは、関連した多くの論考があります。Web上では、「北米における労働組合と労働権法制定の動き」(ジェトロ海外調査部北米課、2014年)など参照
ベッセマー組合投票、第2ラウンドへ。さらに、第3ラウンド?
疑念と反発を生んだ「アマゾン圧勝」の選挙結果
2021年春に行われたアマゾン・ベッセマーでの組合投票は、組合結成に反対する票が賛成する票の2倍以上となりました。この結果について、「会社=アマゾン側の勝利」とメディアが大きく報道しましたが、組合や世論の反応は、この報道とは異なっていました。会社側に批判的、組合側に同情的でした。アメリカでは「貧富の格差」が大きな問題となっていたからです。
ジェフ・ベゾス氏が率いる世界的大企業アマゾンは、「無労組」を標榜する一方、「小便ビン」に代表される過酷な働かせ方は世間からは冷たく見られていました。その会社側の「圧勝」には、強い疑念が浮かび上がりました。とくに、以前から問題になっていた、企業側の「反組合的な抑止力」が投票結果に反映したと考えられました。
労組の反撃と再選挙(第2ラウンド)
選挙を支援してきた「小売・卸売・百貨店労働組合(RWDSU)」は、ベッセマーの組合投票に関連して、NLRB(全米労働関係委員会)に2件の不当労働行為(ULP Unfair Labor Practice)の申し立てを提起しました。この申し立てに対して、2021年11月、NLRBは、アマゾンが2021年春の組合結成をめぐる選挙に不適切な介入をし、公正な選挙を違法に妨害した判断し、RWDSUの申し立てを認めました。そして、NLRBは、アマゾンとの間で、「投票をめぐって反組合的行為をしない」とする、選挙への干渉を禁じた和解協定を結びました。最終的に、アマゾン・ベッセマーでの組合結成をめぐって再選挙を命じ、2022年2月から投票が行われることになったのです。
しかし、NLRBと反組合的な介入をしないと約束をしたのにもかかわらず、アマゾン側は、依然として様々な反組合的対応を止めず、組合投票への介入を続けました。なかでも、「コンサルタント(いわゆる組合潰し(Union Busters)を200人以上も雇い入れたとされています。このコンサルタントたちが加わって、従業員たちに組合への反対票を投じるよう執拗な説得が試みられたのです。
RWDSUは、2022年2月22日、組合のホームページに「ベッセマー、アマゾンの労働者、再選挙における不正行為でアマゾンに対して、不当労働行為(ULP)申し立てを提起へ」という長文の声明(以下)を発表しました。
本日、小売・卸売・百貨店労働組合(RWDSU)は、アラバマ州ベッセマーでの組合選挙のやり直しの際に不正行為を行ったとして、アマゾンに対して不当労働行為(ULP)を申し立てます。
これは組合による2回目のULP申し立てであり、従業員の団結権を妨害することを目的とした同社の行為が継続していることを示すものです。今回の再選挙は、第1回目の選挙における全国労働関係法(NLRA)に反する同社の行為の結果であり、全国労働関係委員会(NLRB)は、自由で公正な選挙を受ける従業員の権利を妨害する行為であると結論づけています。
今回の申し立てはいずれも、労働者が自由で公正な選挙を受ける権利を損ない、抑圧しようとするアマゾンの継続的な取り組みの例を浮き彫りにするものです。
逆境にもかかわらず、BAmazonユニオン〔ベッセマーアマゾンの組合〕の労働者たちは、職場における民主的権利が尊重され、アマゾンがその非道な行動の責任を負うことを確保するために闘い続けているのです。以下に要約するアマゾンの行為は、NLRAに違反するものです。
RWDSUが申し立てた「不当労働行為」の主なものは次の通りです。
①休憩室からの組合資料の撤去 →勤務時間外に掲示した組合支持の資料・チラシを撤去
②シフト前後30分の施設内立ち入りを制限する「新規則」→労働者同士の会話の制限
③「囚われの聴衆(Captive-Audience)集会」 →反組合的研修への参加強制
②に関連して、ある組合活動家の従業員は、同僚と組合結成について話し合ったことについて、会社から、「あなたの活動は休憩時間中に行われたかもしれないが、あなたは同僚の勤務時間中に、彼らの仕事場で同僚の邪魔をした」というメモを渡された、ということです。
とくに、問題になるのは、③の「研修」という名前の強制的な集まりです。そこでは、「組合潰し」コンサルタントたちが従業員たちを集めて、組合に反対するように様々な「手口(tactics)」をするからです。これは、事実上の選挙干渉として最大の焦点となりました。
組合潰しの様々な手口
この「囚われの聴衆集会」でどのような話がされたかは、以下の「組合潰し」の手口(tactics)を批判する「ビンゴ」の形で、組合活動家の間で広まっています。
第2回目選挙:僅差での「アマゾン勝利」の結果
第2回目の選挙は、NLRBの管理下で、投票権のある労働者6,143人に投票用紙が送られ、郵送だけでなく、電子メールでの投票も認められました。そして、第2回目投票の結果は、2022年3月末の集計では、投票数2,375票のうち、組合反対票は993票、賛成票は875票でした。結論は、再び組合結成が否認されたことで、アマゾン(会社)側の勝利となったのです。
しかし、第1回目に1798票あった反対票が993票にほぼ半減したのに対して、賛成票は738人から875票へと約20%も増えたのです。第1回目に組合に反対した、多くの従業員が棄権に回ったと考えられます。とくに、反対が賛成を118票上回っただけの「僅差」でしたが、400票以上の疑問票(contested ballots)があったので、NLRBは、改めて公聴会を開くことになりました。
いずれにしても、第2回目の選挙結果は、確定していません。おそらく、選挙過程で会社側の不当労働行為があったことが申し立てられていることもあり、NLRBの判断によりますが、今後、ベッセマーについては、第3回目の組合投票になる可能性が残っているのです。*
*幸い、バイデン民主党政権になって、NLRBの委員の多数は、トランプ共和党政権時代とは違って反組合的傾向の委員は少数になっていますので、不当労働行為の判断などはより公正なものになると考えられ、組合にとってはその限りでは有利な状況があります。また、バイデン大統領は、これまでの大統領の中でも、労働組合の結成に積極的で、「組合潰し」など組合選挙で使用者側の妨害を防ぐための法律(PRO法)を推進しています。ただ、次の中間選挙の結果では、PRO法は下院を通過したものの共和党など反対が多い上院の通過はますます難しくなります。アメリカの労働人権をめぐる状況改善には大きな壁が立ち塞がっているのです。