臨時国会は10月1日開会予定で動いています。継続審議扱いとなっていた労働者派遣法改正案が動き出します。そのこともあり、東京新聞が以下の派遣労働問題の取材記事を掲載しました。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/CK2010092402000045.html
製造業への派遣などを原則禁止する労働者派遣法の改正案が、秋の臨時国会で継続審議される。リーマン・ショック後に失職した元派遣社員らの苦しみが続く一方、コスト削減を迫られる製造業の下請けの現場では、「派遣」に頼らざるを得ない構造的な問題がある。派遣の現場の声を聞いた。 (稲田雅文)
「一人雇えば一時間千八百円程度はかかる。それ以下だと、誰かがしわ寄せを受けているはず」 愛知県の部品製造会社の社長は二年前、派遣会社から一時間千五百円前後での労働者派遣を持ち掛けられ、首をかしげた。 数年前、自動車業界が特需だったころに、一時間当たり千四百円を派遣会社に支払い、外国人の派遣社員を頼んだ。景気がいい時には日本人の若者は集まらず、外国人のほうが前向きに仕事をしてくれた事情もある。同じような金額で他社で働く派遣社員の中には、有給休暇や雇用保険がない人もいると聞いた。 仕事の多くが二次下請け、三次下請けで、親会社は一定期間ごとに単価引き下げを求めてくる。景気の波も考えれば、期間満了で辞めてもらえる派遣社員は都合がいいかもしれないが、最近は直接雇用の契約社員やパートでやりくりしている。人材は大切な経営資源と考えており、「社員が一丸となって仕事をする中小企業で、派遣社員を使うのは心情的につらい」からだ。
ただ最近は、コスト削減を求められ、十月以降は減産も伝えられている。「以前は系列が優先されたが、最近はコスト第一主義。厳しい」。生産の合理化などで何とか引き下げに応じていく。人件費をネックとみる経営者は多く、“調整弁”として便利な派遣社員を使う心情はよく分かる。 「最初から違法だらけだった」と怒りを口にするのは、自動車軸受け部品を熱処理する会社の三重県内の工場で派遣社員として働いていた男性(39)。三年前に派遣会社の募集に応じ、派遣先の工場幹部の面接を受けた上で採用された。 派遣先が面接するのは派遣法違反。さらに工場側が休日のシフト表を組むなど、派遣会社を頭越しにした違法な労務管理が常態化していた。 面接時に「頑張ったら社員にする」と言われ、まじめに働いたが、受注が減ったあおりの休業で、休業手当を要求すると途中解雇された。現在、「事実上の雇用主は工場だった」と、直接雇用を求めて訴訟中だ。 「親会社からコスト削減を求められて人件費を削らざるを得ないが、正社員は守りたい。そこで派遣会社が“第二の人事部”として入るわけです」。派遣で違法な状態が常態化する背景について、中部地方で主に製造業に人材を送る派遣会社の社長は説明する。 製造業は、大企業を頂点に、四次程度まである下請け会社が連なるピラミッド構造。底辺に向かうほどコストに占める原材料費の割合が増し、削れるのは人件費しかなくなる。 人を雇う場合、直接支払う賃金のほか、労災や健康保険などの社会保険料、有給休暇、福利厚生などのコストがかかる。「二次以下の下請けに人材を送る派遣会社は、安く上げるため派遣社員を社会保険に入れなかったり、有給休暇を与えなかったり、何らかの形で必要なコストまで削っているのが現状」という。
派遣法改正の背景にある派遣会社への批判の高まりについて、この社長は「安く人を雇おうと派遣会社を使ったのは、親会社から下請けまで企業全体の意思。非正規労働者の問題を、すべて派遣会社のせいにするのはおかしい」と指摘。「守られている正社員も痛みを分かち合うなど、非正規労働者だけにしわ寄せがいかない方策を考えるべきだ」と訴える。 <労働者派遣法改正案> 「派遣切り」の社会問題化などを受けて不安定な雇用を是正しようと、1日ごとや30日以下の期間を決めた「日雇い派遣」、製造業への派遣、仕事のあるときだけ雇用契約を結ぶ「登録型派遣」の原則禁止などが盛り込まれている。3月に閣議決定されたが、先の通常国会で継続審議になり、秋の臨時国会で議論される。