秘密保護法案に世論猛反発 焦る首相、野党の審議要求無視 与党、対決路線突き進む

北海道新聞 2013/12/06

 安倍晋三首相が5日、特定秘密保護法案の成立に突き進んだ。与党は同法案の修正で合意したみんなの党や日本維新の会による慎重審議の要求も退けて参院国家安全保障特別委員会で採決を強行し、本会議に緊急上程。5日中の本会議採決は野党の猛反発を受けて見送ったものの、与野党の対立は決定的となり、国会は最終盤で大荒れとなった。

 「ダメだ、ダメだ」「許されるわけないだろ」。5日の同特別委。採決を宣言する中川雅治委員長(自民党)は野党議員に詰め寄られ、「可決」を叫ぶ声は怒号にかき消された。
 力任せの手法に、衆院で法案に賛成したみんなの党も採決を退席。首相は当初、野党の賛同も得た形での法案成立を目指していたが、与党側は反発を承知で採決に踏み切った。
■デモの拡大

 日を追うごとに国会周辺で拡大する法案反対デモ。自民党の石破茂幹事長が自身のブログでデモを「テロ」と同一視したことへの批判もあり、官邸には世論の反発がこれ以上拡大することへの不安が強まっていた。首相周辺は「採決を延ばせば延ばすほど騒ぎは大きくなる。強行のイメージが強まるリスクと世論の反発が高まるリスク。前者をとったということだ」と明かす。

 首相は最近、周囲に「このままだとたたかれ続ける」と懸念を漏らしてもいた。官邸の想定を超える世論の反発が、採決強行に踏み切らざるを得ないほど首相を追い詰めていたともいえる。

 自民党は、法案の廃案を主張する民主党が田村憲久厚生労働相の問責決議案を提出するなど「採決引き延ばし作戦」に出たことを受け、野党側との「全面対決路線」にかじを切った。維新やみんなの態度硬化を心配する声もあったが、脇雅史・参院幹事長は「野党など知らない。構うな」と国対幹部に指示、巨大与党の数を頼んで採決に走った。

■公明も追随

 公明党も追随した。「日本版『国家安全保障会議(NSC)』設置法での関連質問も含めると、衆院とほぼ同じ審議時間を取った。採決は当然だ」。公明党の西田実仁参院幹事長はこう言い切った。

 与党内でのブレーキ役を自任してきた公明党。だが、同法案の修正協議でみんなや維新が自民党との間合いを詰めると「公明切り」を警戒、自民党に寄り添う姿勢を強めた。

 首相が秘密保護法制定の先に見据える「積極的平和主義」に基づいた集団的自衛権の行使容認や憲法改正問題について維新やみんなが前向きなことを考えれば、公明党が自民党の歯止め役とならない可能性もある。

 「ありとあらゆる手を使って、特定秘密保護法案成立を阻止する」。民主党国対幹部は5日夜、こう息巻いた。狙いは常任委員長の解任や閣僚問責の決議案連発などによる「時間切れ」だが、与党はこれらの決議案を採決させない構えで、空振りに終わる可能性もある。

 同法案の修正で合意していたみんなの水野賢一・参院国対委員長も「こんなやり方は尋常ではない。法案に唯々諾々と賛成することは容易ではない」。みんなは本会議採決でも欠席する方針で、同法案は主要野党の賛同が得られないまま成立することになる。

 修正案に合意し、秘密指定の妥当性をチェックする第三者機関設置をめぐってこの日、内閣府に新組織を設置するとの答弁を政府側から引き出して歓迎していた維新も採決強行でムード一変。党中堅は複雑な心境を明かした。「本来は賛成だが、ここまで強引にやられたら、野党のプライドとして賛成できない」(東京報道 平畑功一、則定隆史)

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