電通、残業の未払いを調査へ 社長も刑事裁判出廷の意向

労働環境の改善計画を発表し、記者の質問に答える電通の山本敏博社長(右)。左は柴田淳・労働環境改革推進室長=27日午後4時39分、東京・銀座、相場郁朗撮影(省略)
 広告大手の電通は27日、過去に残業代の未払いがあったとして調査に乗り出す方針を明らかにした。年度内に未払い残業代を社員に支払う考えだ。都内で記者会見した山本敏博社長は、近く開かれる違法残業事件の刑事裁判に自ら出廷する考えも示した。
電通、ずさん労務管理あらわ 社員が「違法残業状態」

長時間労働が常態化していた電通では、社員が時間外に会社に残り、過去のCM映像を視聴したり、担当企業の資料を見たりする場合は「自己研鑽(けんさん)」として労働時間と認めていなかった。山本社長は「昨年10月に(東京労働局に)指摘されるまで、(会社に)在館しているのに業務ではないとしてきた」と認めた。
 どこまで過去にさかのぼるかや具体的な調査方法などは今後検討する。年度内に調査を終え、社員に未払い残業代を支払う方針だ。
 新入社員の過労自殺を契機にした違法残業事件では、労働基準法違反で略式起訴されていた法人としての電通について、東京簡裁が「略式命令は不相当」と判断し、近く刑事裁判が開かれる見通し。山本社長は「厳粛に受け止めている」と陳謝したうえで、「(法人の代表として)自分で(裁判に)出廷するつもりだ」と話した。
 捜査の過程では、法定労働時間を超えて社員を働かせるために労使が結ぶ「36協定」が労働基準法の要件を満たさず、長年無効だったことも明らかになった。山本社長は「当局とのやりとりで初めて気づいた。痛恨の極みだし、ずさんだった」と謝罪した。
 電通はこの日、2019年度に社員1人当たりの年間労働時間を14年度比で2割減らして1800時間にすることなどを盛り込んだ計画を公表した。従業員を増やすほか、無駄な業務を減らしたり、業務を自動化したりする。週休3日制への移行なども検討する。山本社長は「改革は私のコミットメント(約束)だ」とし、責任を持って削減目標を達成するとした。
 電通の新入社員だった娘を過労自殺で失った高橋幸美さんは27日、「立派な計画や制度を作ったとしても、実行しなければ意味がない。強い意思をもって取り組んでいただきたい」とのコメントを発表した。(久保智、土屋亮)
■電通の労働基準法違反をめぐる主な経緯
2015年12月 新入社員の高橋まつりさんが自殺
2016年9月 三田労働基準監督署が高橋さんを労災認定
     10月 厚生労働省が労基法違反の疑いで本支社に立ち入り調査
     11月 厚労省が本支社を強制捜査
     12月 厚労省が法人としての電通と幹部社員1人を書類送検
        石井直社長が辞任表明
2017年1月 電通が労務担当役員らを処分
     4月 厚労省が3支社の幹部計3人と電通を書類送検
     7月 東京簡裁が電通の略式起訴処分を不相当と判断し裁判を決定

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