正社員の解雇規制の緩和など労働市場の流動化に向けた議論が政府で進む中、逆に労働者が「辞めたいのに辞めさせてもらえない」といった労働相談が増えている。デフレ不況で企業がリストラを進めすぎた結果、人手不足に陥ったためといわれるが、かつて「不当解雇」の訴えが主流だった労働相談も様変わりしているようだ。
「辞めたら仕事に穴があく。損害賠償しろ」「こんなときに辞めるなんて、人としてどうよ」…。
毎週日曜に労働相談を受け付けているNPO法人労働相談センター(東京)には、自己都合で退職を申し出た労働者が経営者から浴びせられたこんな言葉が相次ぎ報告されている。
2008(平成20)年9月のリーマン・ショックの時期を含む20年7〜12月、相談の4割近くは解雇(会社都合の退職)に関するもので、「会社が辞めさせてくれない」など自己都合をめぐる相談は15%に満たなかったが、昨年1年間は25%程度で推移している。
給与を前借りさせて辞めないように仕向けたり、社長が自宅に乗り込んできて怒鳴り散らしたりする例もあった。センターの相談員は「正社員、派遣社員などの立場や年齢、性別の偏りはなく、あらゆる職種でみられる。経営者の都合で労働者が抱え込まれたり、放り出されたりしている現状がある」と話す。
厚生労働省の労働相談統計でも、全国の労働局などが受け付けた民事上の個別労働紛争相談のうち、15年度は29%が解雇をめぐるトラブルだったが、23年度は18%に減少。一方で、自己都合退職にまつわるトラブルは同じ期間に3%から8%に増えた。背景には、長期にわたるデフレ不況の下、企業がリストラを進めすぎた結果、逆に人手不足に陥ったケースがあることが指摘されている。
東海大の小崎敏男教授(労働経済学)は「希望退職に応募した社員が、希望通りに退職できなくても裁判で違法とされた例は聞いたことがない。こうした場合、社員は出社しないなどの強硬策を取るしかない」と指摘。「少子化で労働人口が減る中、労働者を無理やりつなぎ留めるような企業は、長期的には淘汰(とうた)されるだろう」と予測している。