賃金あいまい、架空募集も ブラック企業の入り口に

共同通信 2014年9月1日

 あいまいな表現で賃金を高く見せたり、労働者を集めるために架空の募集を出したり
するなど悪質な求人が相次いでいる。若者を過酷な労働やパワハラで使い捨てる「ブラ
ック企業」の入り口となることもあり、厚生労働省は対策に動きだしたが、踏み込んだ
規制を求める声が高まっている。

 「大手人材会社の求人サイトに『初任給30万円』とあり、これが基本給だと思って
いた」。不動産関連の中堅企業で長時間労働の末、3カ月足らずで退職を余儀なくされ
た東京都の男性(23)は振り返る。

 男性は今春大学を卒業してこの会社に入り、いきなり過大な営業ノルマを課された。
午前8時ごろ出勤し翌日の午前0時近くまで帰れない日が続き、残業は月160時間を
超えた。

 給与明細に「基本給15万円、固定残業代15万円」とあり、30万円の初任給が残
業代込みだったことに気づいた。固定残業代は、実際の勤務時間にかかわらず、あらか
じめ決めた一定時間分の残業代を支給する方法。本来は決められた時間以上働くと追加
の残業代が発生するはずだ。

 しかし、会社は固定残業代が何時間分の労働に相当するのかさえ示さず、追加の残業
代もなかった。「結局は月30万円でノルマを達成するまでいくらでも働けということ
だった」

 男性は、100万円超の未払い残業代があったとして会社側に請求する方針だ。「入
ったのがブラック企業でも、履歴書には新卒でたった3カ月間働いて辞めたという結果
だけが残る。次の就職活動をどうやればいいか見えてこない」と肩を落とす。

 悪質な求人は民間サイト以外でも多い。ハローワークの求人票の記載と実際の労働条
件が違うとして全国の窓口に寄せられた相談や苦情は、2012年度で7783件に上
った。
 賃金や就業時間に関するものが全体の4割強を占めるほか、求人とは違う職種に就く
よう求められたり、正社員の募集に応じたのに非正規で雇われたりしたケースもあった

 トラブル多発を受け、厚労省は今年に入ってハローワークでの求人受け付け時に、固
定残業代の算定根拠の明示を求めたり、苦情が多い企業を指導したりするなどの対策を
始めた。
 ただ、実際の労働条件が求人内容と異なっていても、雇用契約の時点で労働者が同意
すれば法的に問題があるとはいえず、規制が難しい。民間求人サイトの多くではハロー
ワークのようなチェック自体、行われていないのが実情だ。

 今年3月、岡山県の人材紹介・派遣会社が、働く場所や労働時間をでっち上げるなど
してハローワークや求人誌で架空の求人を出していたとして、大阪労働局などから業務
停止命令を受けた。虚偽の求人広告による行政処分は全国初だ。

 求人案内を数多く出すことで、まず働く意思のある人をより多く確保。その上で、求
職者を企業に紹介して手数料を多く稼ごうというのが人材会社の狙いとみられる。

 求職者は本来、条件が合えばすぐに採用されるのに、架空求人では申し込んでから人
材会社による仕事探しが始まる。採用までに時間がかかる上、他の職に就く機会を奪い
かねない違法行為だが「結果的にどこかに採用されると本人が被害者と気付かず、表に
出にくい」(労働局の担当者)ため、今回も氷山の一角との指摘がある。

 ある悪質求人の被害者の男性は「仕事を求めている人は雇う側の企業や仲介業者より
立場が弱く、情報量も少ない。規制を強化して取り締まらなければ被害はこれからも増え続ける」と対策強化を訴えている。

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