SankeiBiz(PRESIDENT Onlineより)2014.11.2
なぜ若手社員は店長になりたくないのか
小売業や飲食業などでは、若手社員の間で「店長にはなりたくない」という人が少なくありません。これを私は、『店長になりたくない症候群』と呼んでいますが、彼らの理由はこうです。
「店長になっても、たいして給料は上がらないし」「残業代がつかなくなって、かえって年収が下がる人もいるし」「人件費を増やせないから、店長自身が休みなく夜中まで働いて」「その割に、業績が悪いと本部や社長からガミガミ言われて」「部下やパートタイマーからも文句を言われるし」とても希望のもてるポストじゃないよ、というのです。
2008年、マクドナルドの店長が残業代の支払いを会社に求めて訴訟を起こしました。店長の仕事が法律で定められた管理監督者に該当すれば、会社は残業代を支払う義務はありません。
ところが裁判所は、この店長の主張を支持し、会社側に残業代の支払いを命じました。そのため「名ばかり管理職」(会社は管理職の扱いをしているつもりでも、実態は管理職ではない)という言葉が流行りました。
これは店舗ビジネスの業界だけではありません。メーカーや商社なら『課長になりたくない症候群』ということになるでしょう。新入社員向けの意識調査などでは、「出世」に対する意欲はやや上昇しているようですが、実際の管理職は待遇的に報われるポジションなのでしょうか。
表は、日本貿易振興機構(JETRO)の調査データを基に、職種ごとの平均給与を国別に指標化したものです。これを見ると、工場作業職の平均給与を1.0とした時、日本はエンジニアで1.4、中間管理職(課長クラス)で1.8となっています。
責任の重さに見合った待遇改善を
実は、この1.8倍という水準は、韓国とはほぼ同じですが、他の国々と比べると、かなり低い値であることが読み取れます。
イギリス、フランス、ドイツといったヨーロッパ各国で、2.3〜2.5倍。アメリカで、4.0倍。中国3.0倍、インドネシア3.9倍、インドは何と5.2倍となっています。
この値は新興国ほど高くなる傾向にありますが、先進国であるアメリカで4倍、欧州諸国でも2倍強であることを考えると、日本や韓国の低さが目立ちます。
事実、国内を見渡せば「残業をたくさんする係長の方が、残業代のつかない課長よりも給与が高い」といった会社はいくらでも実在します。
日本では、社内の給与格差より、規模や業種による企業間格差の方が顕著といえます。大企業のヒラ社員に年収が及ばない、中小企業の管理職はザラにいます。
もちろん、管理職に昇進するメリットは、報酬アップだけが全てではありません。社内外への信用やメンツもあるでしょう。部下を持つことによる、人間としての成長という側面も重要です。
また一方で、「ウチの管理職なんて、たいして仕事してないし、この程度の給与水準で十分。むしろ高すぎるくらいだ」と思う人もいるかもしれません。
しかし、若手社員の多くが向上心を失った会社に、将来性は期待できません。課長や店長をあこがれのポジションにするためにも、一定の魅力を感じられる管理職の待遇は必要なのです。
管理職層については、責任の重さに見合った待遇改善を、強く主張したいと思います。(新経営サービス 常務取締役 人事戦略研究所所長 山口俊一=文)(PRESIDENT Online)