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朝日デジタル 2015年5月11日11時59分
写真・図版:与えられたテーマに対し即興で役を演じる学生ら=東京・飯田橋(省略)
即興劇をする。焼き魚を食べる。プラモデルを作る――。すべて企業の採用試験の一例だ。中小企業を中心にこうしたユニークな採用方法が広がっている。人材の適性を見極めたり、会社をPRしたりするのに効果的だという。
「サンタクロースの悩み」「30歳の同窓会」。次々と飛んでくるお題に合わせ、大学生が即興劇を演じる。共演者の動きや自分に求められた役を、その場で見極めなければならない。企業の採用担当者が一緒に演じることもある。
東京・飯田橋で1月下旬にあった新卒採用会の一場面だ。採用支援会社「カケハシスカイソリューションズ」(東京都新宿区)が初めて企画し、学生20人と、建設やIT企業の計4社が集まった。元バレエダンサーで進行役の野原秀樹さんは「即興演劇は人と人との関係を構築していく力が試される」と説明する。
企業側の狙いは、大手企業に流れやすい優秀な人材の確保だ。広島建設(千葉県柏市)の綿貫亮・人財開発室長は「早く内定を出しても、大手に内定が決まれば辞退されることも多い。採用のメインシーズンの前に多くの学生と会い、時間をかけて会社のファンになってもらう必要がある」と話す。参加した明治大4年の石川裕生(ゆうき)さん(21)は「こういう採用なら楽しくて、社員の方と近くで話もできる」と歓迎する。
リクルートワークス研究所によると、2016年3月卒業予定の大学生・大学院生に対する企業の求人倍率(民間企業志望の就活生1人あたりの求人数)は1・73倍。前年の1・61倍から増加し、4年連続の上昇となった。同研究所の戸田淳仁(あきひと)主任アナリストは「中小企業に目を向ける学生も増えているが、求人意欲が増え、大手志向も続いている」と指摘する。こうした中、従業員300人未満の企業の求人倍率は3・59倍(16年3月卒)と高く、中小企業にとって人材確保は最優先課題のひとつだ。
就職情報会社「学情」が16年3月卒業予定の大学生らに行った調査でも大手志望の傾向がみられた。志望企業を「全国的に知名度のある大手企業」と答えた割合は約44%で、前年より約6ポイント上昇した。
米菓製造販売「三幸製菓」(新潟市)は今春入社の採用試験から「おせんべい採用」を始めた。せんべい好きを表現したリポートなどで1次選考する。システムマネジメント部の杉浦二郎次長は「マニアックなほどの情熱をみたい」。初年度は約30人が作品を寄せた。
ふぐ飲食店「東京一番フーズ」(東京都新宿区)は「ふぐ顔採用」を昨年の採用から始めた。名前の通りふぐ顔を披露する。ほかに、至福と感じたエピソードを披露する「至福面接」など、ふぐにちなむ29個の採用方法を用意した。応募者は例年の4割増だという。人事総務部の若狭愛子さんは「面白い会社だなと思ってもらって、大手希望の学生や、これまで来なかったタイプの学生にも足を運んでもらうきっかけにしたい」と話す。
■「人間性見える」
ユニーク採用に手応えを感じている企業もある。
焼き魚を使うのは、精密光学機器メーカー「三鷹光器」(東京都三鷹市)。サンマやアジなどを食べるときの箸の持ち方や食べる順序、残す場所などを見れば、どれだけ細かい部分に気を配る性格かがわかるという。筆記や模型飛行機作り、裸電球のスケッチに加え、昼食の時間も生かそうと20年以上前に始めた。中村勝重社長は「手先の器用さだけでなく、人間性も分かる。望んだ人材が採用できている」と話す。
入社12年目の白石竜児さん(29)は入社当時、採用試験とは知らなかったが、「普段から残さずきれいに食べるよう意識していた」と話す。医療機器の製造部門のグループでリーダー格として活躍する。昨春入社の小松原啓さん(26)は、焼き魚の食べ方を練習して試験に臨んだ。「本人の持ち味を見てくれる会社だと感じた」
入れ歯製造・販売の「バイテック・グローバル・ジャパン」(東京都中央区)は6年前から、人気アニメ「機動戦士ガンダム」のプラモデル「ガンプラ」を歯科技工士の採用試験に使い、チームワークをみている。会社では協力作業が多いからだ。数人をひと組にして、塗料を1セット渡す。それぞれが3時間以内に完成させるのだが、塗料を融通しあわないとうまくいかない。広報担当の牧洋介さんは「周りに気を配る人もいれば、黙々と作業に打ち込む人もいる。学生同士のやり取りを見れば、実際に働いた時の様子が想像できる」と話している。(岡田昇、山田優)