<限定正社員制度>約4割の企業で導入 効果はこれから

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毎日新聞  2015年10月12日

 勤務地域や時間を限って働く「限定正社員」。2013年に、政府の規制改革会議が推進の方針を打ち出した際には、「正社員を解雇しやすくする制度ではないか」などの懸念の声もあったが、厚生労働省によると現在、約4割の企業で導入されているとみられる。職場の実情をみてみた。

 ●「みんなが応援」

 和食レストランの、さと多摩ニュータウン店(東京都多摩市)では11月、短時間勤務正社員の平原織江さん(43)が店長に就任する。平原さんは10年前から、パートとしてランチタイムに3時間働いてきた。常連客からも信頼され、平原さんが休みだと、客から残念がる声が上がるほどだという。

 運営するサトレストランシステムズ(大阪市中央区)は昨年10月に限定正社員制度を導入。平原さんも2月に限定正社員となり、店での働きぶりが認められ、店長就任が決まった。勤務時間は平日は午後3時から午前0時まで。給与は同一労働同一賃金の方針から、フルタイムの社員と同じ扱いになる。平原さんがいない時間は、他の従業員や同じエリアの店がフォローする体制も整った。

 客からは「偉くなったね」と言われるが、部下はかつてのパート仲間であり、実績も示さなければならない。「これまではお客様のことだけでよかったが、従業員のことも考え、店の売り上げも伸ばさなければ」と責任の重さを感じている。それでも「家族もお客様も応援してくれて幸せ。あと10年は精いっぱい頑張りたい」と笑顔をみせる。

 限定正社員制度導入から1年。同社は地域限定38人、短時間勤務271人の計309人をパートから正社員に転換した。労働集約型で人手不足に陥りがちな外食産業で、質の良い従業員を確保するため内部事情に詳しいパートを正社員化するとともに、育児などに柔軟に対応でき女性が働きやすいようにするのが目的だ。今後も増やす方針という。

 田口剛取締役は「正社員になって制服も変わり、意識変革が起きた。今後、店舗数を増やすので、今年度中に10人ぐらいの限定正社員の店長を誕生させたい」と説明する。

 ●導入効果これから

 限定正社員導入の理由はさまざまだ。日本郵政(東京都千代田区)は昨年4月に新一般職という地域限定の正社員制度を導入した。07年の民営化以降、期間雇用社員が定着せず、採用コストもかかることから、正社員比率を高めて待遇を改善することを目指した。人事考課と本人の希望をもとに、グループ全体で昨年4月には4700人、今年4月には3000人が期間雇用社員から新一般職として採用されたほか、今年の4月は新卒者も2800人採用した。

 黒田新悟人事部グループリーダーによると、短期的なコストは上昇し、導入の効果はこれからだが、正社員比率を高めることでサービス品質向上が期待されるという。

 りそなホールディングス(同江東区)は勤務時間を限定する「スマート社員」を来年4月から導入する。パートからの登用と、育児、介護で限定勤務を望む正社員が対象。全体で100人ほどを想定している。

 従来、パートから正社員になる制度もあったが、勤務時間が長くなるのを敬遠して希望者が少なかった。正社員も出産、育児による退職者がなくならないのが実情だった。そのため、正社員とパートを結びつける「スマート社員」を創設。給与はフルタイムの正社員と同水準だが、賞与や企業年金などで差をつける。

 久鬼至留(くきいたる)人材サービス部グループリーダーは「今後はいかに働き方のバリエーションを提案できるかが企業の魅力となる。制度を作ったので、運用をいかにうまくするかが課題」と話す。

 ●不公平感の解消を

 「アイデム人と仕事研究所」(同新宿区)が6月に行った調査では、限定正社員を導入した企業ではメリットとして「人件費の抑制」「業務に習熟した人材の定着」「限定正社員のモチベーション向上」を挙げたところが多かった。

 デメリットは「従業員に不公平感」「賃金設定が複雑」「仕組みの整備が難しい」という順。解雇のしやすさについては、68%の企業が「正社員と変わらない」と回答している。岸川宏所長は「限定正社員の運用を成功させるには、働き手のニーズに合わせるとともに役割の明確化などで不平不満が残りにくいようにすることが重要だ」と話している。【柴沼均】

 

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