聞き手・三島あずさ
朝日DIGITAL 2016年6月12日
http://digital.asahi.com/articles/ASJ676S45J67ULFA02Z.html
朝日新聞デジタルのアンケートでいただいたコメントからは、長時間労働への根強い不満がうかがえます。特に、企業が意識を変えるべきだとの意見が目立ちました。現在は就職活動シーズン。専門家からは、仕事と生活のバランスを重視する学生が増え、意識を変えられない企業は人材獲得で苦戦する、との声も聞かれました。
アンケート「働き方、どう変える?」
■「年収より生活」の学生増加 「就職四季報」森智彦編集長
社員の平均年収や勤続年数、採用実績など、企業へのアンケートをもとに約5千社の情報を載せた「就職四季報」(東洋経済新報社)を毎年発行しています。学生のニーズに応え、2003年版から残業時間や有給休暇の取得状況、07年版からは新入社員の3年後の離職率も掲載しています。
学生と接していて感じるのは、年収より、離職率や残業時間、有給休暇の消化率に注目する学生が、ここ数年で確実に増えている、ということです。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが今春の新入社員1300人余りに行った調査では、「残業が多くても給料が増えるのだからよい」という回答が37・6%、「給料が増えなくても残業はないほうがよい」という回答が62・4%で、後者の割合は04年の調査開始から過去最高でした。私の実感と一致しています。
長時間労働で会社に滅私奉公しても、終身雇用が保障されるわけではなくなりました。「ブラック企業」の問題が注目されるようになったことも大きい。「自分なりの働き方や生活を大事にしたい」と考える学生が増えたのは自然な流れだと思います。「会社は始業時間には厳しいのに、終業時間にルーズなのはなぜですか」。そんな素朴な疑問も学生からよく聞かれるようになりました。
働き方を変えたことで、学生の人気が高まった企業もあります。例えば、11年に2社が合併して誕生したIT企業「SCSK」です。残業時間の削減に取り組み、就職四季報に掲載したデータによると、1カ月の平均残業時間は32・7時間(13年版)から18・3時間(17年版)に、有給消化の平均日数は12・4日(13年版)から19・2日(17年版)になっています。ITの同業他社の人事担当者は「最近SCSKに学生をとられてしまう」とこぼしていました。
私自身、趣味のトライアスロンを通して多様な人々と付き合うようになったことで、仕事のヒントも得られています。ダラダラとした勤務を減らし、私生活を充実させることは、仕事に確実にプラスになると実感しています。
若者がワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を重視する傾向は今後ますます強まるでしょう。それに対応できない企業は、人口が減る中で、優秀な人材を確保できなくなります。働き方について、ボトムアップの改革はなかなか難しい。やはり、トップの意識の変化と「本気で変わろう」という決断が重要だと思います。(聞き手・三島あずさ)
■トップの旗振りで残業減
SCSK(本社・東京、社員数約7500人)は2012年度、当時の社長の強い旗振りのもとで、残業時間の削減に取り組み、残業が多い部署には次の四半期に半減させるよう求めました。13年度からは全社員を対象に「有給休暇取得日数20日(100%取得)」や「月の平均残業20時間以下」を目指すプロジェクトを開始。浮いた残業代は賞与に充てて給料が減らないようにし、社員のやる気を高めたそうです。月の残業時間が80時間を超えた場合は、上司が理由を社長に直接説明する仕組みも導入しました。同じ部署で全員が有給を取得するには業務をフォローし合うことが欠かせません。必然的に、効率やチーム力の向上につながっているそうです。
■しがみつくしかない 子育て中の30代女性
「結婚や育児で退職した女性のポジションは新卒か派遣で埋められる。育児が一段落して再雇用された女性は見たことがない」というメールが届きました。関西地方で子育て中の30代の正社員女性に聞きました。
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子供の保育所への送り迎えの時間を配慮してもらい、就業時間を繰り上げています。育児に負担が無いように、職種は営業から事務にしてもらいました。運が良かったと思っています。
会社は人件費削減で、正社員が辞めれば、代わりに派遣社員を雇い、仕事ぶり次第で、契約社員にしています。自分が会社を辞めれば、非正社員にとって代わられる危機感があります。一度辞めると正社員の職は得づらいので、しがみつくしかないと思っています。
一緒に働く非正社員は、社外の人との話し方などで、正社員との能力の違いを感じます。スキルアップの機会がなく、正社員と同じ仕事ができるか疑問です。教育体制が整っていないと思います。
私は勤務時間の制限があるので、仕事の中身で勝負しようと、新たに資格を取りました。でも、仕事が遅くても、残業をいとわない非正社員の方が重宝されているように思います。世間では非正社員を正社員にすべきだという話もありますが、非正社員がスキルアップしないまま正社員になるのは、納得できないと感じます。
■アンケートに寄せられた声
長時間労働をなくすには。様々な提案がアンケートに書き込まれています。
【組織改革】
「私の部署では残業10時間程度です。以前は平均45時間でしたが評価を見直し、上司も早く帰るように推奨。上司への報告のための資料を極力削減それにあわせて会議も1時間以内に短縮をしました。結果残業は減り業務効率も大幅に向上しました」(愛知県・40代男性)
【評価改革】
「私は同一賃金同一労働の外資系企業で働いています。まず入社して人事に言われたのは、『残業をするのは時間内に仕事を終わらせる能力が低いと評価されます』。休憩時間も有給も100%取得。業務の都合で有給をキャンセルすることはなく、有給に合わせて業務を変更することは許可されます。そして本当に上司(管理職2人)の承認が得られている残業以外で残業をしていると翌年の評価に響きます。上司も残業承認が多いと評価が下がるようです。たいてい1年もしないうちに、私たち日本人でも残業するのが悪と感じるようになります」(神奈川県・40代女性)
【規制強化】
「人手を増やしても、日本では労働者の立場が弱いため、改善にはつながらないと思います。抜け道が多すぎる長時間労働防止の法律をより厳しくし、国がもっと強く介入すべきです」(東京都・20代女性)
【残業代改革】
「残業の割増率をもっと増やし、労働時間に応じた高い残業手当を支払わない場合は、払わなかった賃金以上の罰金を経営側に支払わせることにより、きちんと支払った方が得になるような法規制が必要です。残業を減らすのは経営側の責任です。高い残業手当を徹底すれば、経営側が人を増やし、業務の無駄を省く努力をするでしょう」(京都府・40代男性)
【意識改革】
「長時間労働を無くすには働き手自身の意識改革がまず必要。さらに顧客や会社もそれを容認する社会とならなければならない。約束の期日をきっちり守る、無理な要求に応えるということは素晴らしいことではありますが、そのためにバランスが崩れてしまっては元も子もない。次のパフォーマンスにも影響します。お互いに程々ということだと思います」(広島県・30代女性)
■転勤・異動についても
転勤・異動に関する声も寄せられています。
●「娘を育てながら正社員で働いています。夫は単身赴任を繰り返し、同居できる期間も基本的に残業で終電で帰宅です。最近は子育てママの先輩がたが地方への単身赴任を求められています。自分にその話がきたら……。頑張ってきたけど、結局やめなければならなくなるかも。何か腑(ふ)に落ちませんが現実ですね」(神奈川県・40代女性)
●「ジョブローテーションという名のもと、畑違いの職種の課長として異動しても仕事の実務が分からず残業が増える一方で改善も進まない」(広島県・40代男性)
●「望まない異業種への部署異動を繰り返しうつ症状発症、転職先では過労から死を望むほどのうつ病となり2年離職し、残業の少ない単純作業に社会復帰して1年まだうつ病を患っています。過労は労務管理のあり方と各自の意識で防げると気付けました。会社は人材を人財として正しく評価し配置すべきと考えます」(大阪府・40代女性)
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