着ぐるみ熱中症死亡 元スタッフが告発「すぐに脱いでいれば……人命よりも夢という環境」(8/5)

着ぐるみ熱中症死亡 元スタッフが告発「すぐに脱いでいれば……人命よりも夢という環境」

大阪「ひらかたパーク」アルバイト死亡事故#1
「週刊文春」編集部 2019/08/05
 
source : 週刊文春
 
 関西を代表する猛暑の街、大阪府枚方市の遊園地「ひらかたパーク」にて7月28日、スタッフ・山口陽平さん(28)が、着ぐるみショーの練習後、熱中症で死亡した。
 
 救護にあたった消防局関係者が話す。
 
「20時03分に119番通報、脱水症状で意識、呼吸なしという報告を受けた。20時12分救急隊員が現地到着。関係者が蘇生をおこなっていたが、脈も無かった。すぐに近所の医療センターに運んだが間に合わなかった」
 
 
「国内最古の遊園地」で起きた悲劇
 山口さんは既婚者で、昨年12月からダンサー、着ぐるみ、MC、キャラクターのエスコートなどをする営業チーム・エンターテイメント担当のアルバイトとして働いていた。
 
「業界としては未経験だが、昔から夢だった仕事で必死に働いていました。『結婚もしていますし、一日でも早く一人前になりたい』って……」(同園関係者)
 
 ひらかたパーク、通称“ひらパー”は1912年に開業。継続して営業している遊園地としては「国内最古」として知られている。
 
「毎年100万人以上来場する地元で人気のテーマパークです。USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)が進出した2001年以降、赤字が続き、来場者数も一時80万人まで低迷しました。が、ブラックマヨネーズの小杉竜一(46)やV6の岡田准一(38)がイメージキャラを務める『ひらパー兄さん』『超ひらパー兄さん』の影響でV字回復。昨年の来場者数は130万人を超えています」(テーマパーク関係者)
 
〔写真〕幼少期には「ひらかたパーク」で遊んだという枚方出身の岡田准一 ©文藝春秋
 
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 山口さんが入っていた着ぐるみは、パークのマスコットキャラクター「ノームのなかまたち」の「トランプ」という全身緑色の巨大なトロールで、着ぐるみの総重量は15キロ。28日は2度装着したという。
 
山口さんの死は“炎天下の不幸”ではなかった
 同園の広報担当者が話す。
 
「(山口さんは)お昼ごろに出社して、グリーティング(着ぐるみで接客)の対応をしていました。その後、バックヤードで軽装に着替え、ショーの練習をした後、19時から再び着ぐるみの準備をして、19時30分からリハーサルの通し練習をしました。
 
 リハ中はいつもと変わった様子もなく、19時50分に終わり、バックヤードに戻っていく途中の通路で体調が急変したと聞いています。最初はフラフラとしたので一人スタッフが駆け寄り、それでも歩けないのでもう一人が駆け寄った。支えられながら辿りついた控え室で、救命措置を施されながら救急車を待っていたと聞いています」
 
〔写真〕山口さんが入っていたというトロールの着ぐるみ「トランプ」(同園ポスターより)
 
 実は山口さんは前日に体調を崩し、風邪薬を服用していたという。一見、炎天下での不幸が重なった事故とも見えるこの事案。だが、情報提供サイト「文春リークス」には複数の元パーク従業員から情報が寄せられ、運営への不信感を告白した。
 
「いつか起きると思っていました……」
 
 そう話すのは、数年前に2年ほど同園でキャラクターの着ぐるみに入っていたA子さん(30代)だ。
 
ひらパーの着ぐるみは頭をガンガン、ダンスもキレッキレ
「ひらパーは、時間管理が他のテーマパークに比べてとにかく杜撰なんです。ショーが終わってからほとんど休憩もなく、急いで着替えて閉園のお見送りのグリーティングに行かされる。他のテーマパークでは夏場のグリーティング時間が半減され、15分になったりするのですが、ひらパーはどんなに暑くてもきっちり30分やらされます。
 
 
 着ぐるみに入る以外の仕事も多く、ハードな上に時給が安いことが業界では有名です。私が働いていた当時の時給は900円以下で、大阪府の最低賃金でした(※現在大阪府での最低賃金は936円、ひらかたパークは最低時給940円)。年に何回か昇給のチャンスはありましたが、それも10円程。それでも夢だったステージに立つために皆必死に働きました」(A子さん)
 
数年前に「ひらかたパーク」で着ぐるみに入っていたA子さん(30代) ©文藝春秋
 
 パークのショーは通常土日のみの開催とされており、全員が出勤している土日の閉演後、園内を使ってショーのリハーサルをするのが通例となっているという。山口さんが死亡した日も8月から始まるショーのリハーサルが行われていた。
 
「当時からリハーサルは、キャスティング権限を持つB氏という男性社員が見て、次回のショーに出演できるメンバーを選定するというシステムでした。パークの着ぐるみパフォーマンスは、表現力よりも、とにかく頭をガンガン動かしたり、ダンスもキレッキレに踊るのが良しとされる風潮がありました。
 
 夜間のリハーサルでは、日中働いてどんなに疲れていたとしても、みんな必死にキレッキレに動いてアピールするのが常識になっていました。そんな雰囲気ですから、体調に異変を感じてもすぐに言い出せるような環境ではありません」(A子さん)
 
「リハーサル中でも部外者に素顔をさらすのは禁止」
 現場責任者のB氏は絶対的な権力を握っていたという。
 
「エンターテイメント部はB氏を含めて社員は2人のみで、他のスタッフ30人は皆アルバイト。B氏は昔ながらの職人気質なんです。赤字だったエンターテイメント部門をテコ入れして、ゼロから人気ショーをつくった実力者ですが、何かと根性論で推し進める。体育会系で、しょっちゅう厳しい声が飛び、パワハラまがいのこともあった。山口さんもB氏の期待に応えようと、体調が悪い中で必死だったんだと思います」(同前)
 
 別の告発者であるC子さん(20代)は2年ほど前、1シーズンほど同部署で働いた。
 
「山口さんが着ていた『トランプ』はとても大きくて、女の子が2人くらいいても持てないような重さ。1人での着脱は無理です。B氏も着る人がいないときは自身が代打で入ることもありましたが、終わった後、ゼーゼーと息が上がっていました。
 
 体調が悪い状態で入るのは自殺行為です。水分を摂るよう上からよく言われていましたが、着ぐるみは一度着ると脱ぐことができず、トイレにも行けないため、たくさんは飲めないんです。たとえ、閉演後のリハーサル中でも部外者に素顔をさらすことは絶対に禁止とされています」(C子さん)
 
ヘッドをとらないのは「業界の“鉄の掟”」
 同園の広報担当者に着ぐるみ着脱のルールについて聞いたが、「緊急時はハンドサインが決められており、着ぐるみの着脱は認めている」と説明する。だが、A子さんやC子さんは「業界の“鉄の掟”がそうはさせない」と強く否定する。
 
「常識で考えたら着ぐるみをはずせばいいじゃんって思うかもしれませんが、変なプロ意識もあって外でヘッドをとるのは一回も見たことありませんし、暗黙で禁止されている。たとえ閉演後であっても飲食店のスタッフとかもいるし絶対脱げない。報道で(山口さんが倒れたのは)園内から控え室に向かうところだったと書かれてましたが、そこまでなんとか辿り着いたんだと思います。
 
 きつければ声をだせばいいじゃんとも言われます。たしかに、頑張れば声も出せるのですが、これも業界あるあるなんですけど、声を出すのは基本動作として駄目で、たとえバックヤードでもキャラになりきってジェスチャーをしてしまう。人命よりも夢を守るという考え方なんです、この業界は」(A子さん)
 
©文藝春秋
 
オリンピックを前に変わらなければいけない
「着ぐるみは脱げないです。エンターテイメント部の人の前以外では同じパーク従業員の前でもNG。バックヤードの部屋に行くまではずっとキャラクターのままでいくのが鉄則。サインはキャラクターごと、担当者ごとに決めています。例えば1とか2とか3とかハンドサインがあり、ほんとに駄目なときは手をクロスします。
 
 でも本番はショーが終わってから撮影会があり、皆気力で乗り切っている。ショーの期間、救急セットを常に持ち歩いてるスタッフもいてそこに保冷剤とか大量に入っているのですが、これも着ぐるみの中の子は戻ってからになります。私はひらパーをやめて今はフリーランスでやっているんですが、業界はどこも同じ、着ぐるみ業界はオリンピックもありますし、今後変わらなければならないんだと思います」(C子さん)
 
 府警は熱中症の原因は不十分な熱放散環境下での行動とみており、業務上過失致死の疑いも視野に慎重に捜査を進めていくという。
 
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