夕刊フジ バス運転手“残酷物語”…これでは“走る棺おけ”だ

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群馬県藤岡市の関越自動車道で7人が死亡、39人が重軽傷を負った高速ツアーバス事故。車体が防音壁に串刺しになるという前代未聞の事態を受けて、ツアーバスの厳しい実態が浮き彫りとなった。客の争奪戦で「格安」「豪華」の二極化が進み、安さで売るツアー、バス会社には事故を招く過酷な環境が常態化していたようだ。

群馬県警などによると、バスが衝突した関越自動車道の防音壁と直前に設置されたガードレールの間に20〜30センチの隙間があったことが分かった。捜査本部では隙間が被害を拡大したとみて詳しく調べている。

ツアーバスは、企画する旅行会社の多くが、貸し切りバス会社へ業務委託することでコストを削減している。事故を起こした旅行を企画したツアー会社「ハーヴェストホールディングス」(大阪府豊中市)と、運転手が事故を起こしたバス会社「陸援隊」(千葉県印西市)もこの業態だった。

料金を下げて集客を図るため、金沢−東京の場合、高速路線バスの西日本JRバスの片道7840円に対し、ハーヴェストのツアーバスは3500円と半額以下。

最近では45人乗り座席を30席に減らし、電動リクライニングの座席など豪華さを売るところもあるが、45人乗りにめいっぱい乗せて、東京−大阪を2000円台で販売するなどに二極化。ツアーバス同士でも料金が4倍近く異なる路線もある。

国土交通省は指針で、運転手1人の1日当たりの運転時間と走行距離を9時間、670キロまでと定めている。陸援隊のバスは、往路は河野化山(こうの・かざん)運転手(43)ともう1人が乗務したものの、事故を起こした復路は河野運転手1人だけだった。

同業他社の運転手は「ワンマン運行が法的に可能とはいえ、長距離の夜行は安全性を考えて2人乗務が基本ではないか」と問題視する。

運転手の勤務実態は過酷だ。総務省が貸し切りバス運転手に行った調査(2008年)では、運転手の89%が運転中、睡魔に襲われたりした経験があると答えた。理由を複数回答で尋ねると「運行日程が厳しく疲れがたまっていた」が61%と最多で、「休みや休憩が不十分で過労運転が常態化していた」が59%。連続勤務が「30日以上」と1カ月間、全く休んでいない運転手も5%もいた。

運転手の過酷な勤務の背景にはバス会社を取り巻く厳しい経済環境がある。2000年からの規制緩和によりバス会社は、1999年度の2336社から2010年度の4492社へ倍増。一方、1台の1日当たりの営業収入は同じ期間に8万519円から6万3435円へ2割以上減った。

山形県のバス会社は規制緩和以降、山形−東京間で旅行会社から得る収入が30万円から10万円近くまで減らされた。夜行は運転手2人体制が基本だが、旅行会社から「なぜ2人なんだ。1人で十分だ」とクレームがきたことがあった。運転手のホテル代の負担が増え、客席の座席が減ることを嫌ったためだった。

コストダウンに突っ走った末に招いた悲劇。亡くなった命は戻らない。

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