派遣法改正案:専門26業務廃止…じわり雇い止めの不安

http://sp.mainichi.jp/select/news/20150620k0000m040198000c.html
毎日新聞 2015年6月20日
 
 細切れでしか働けない派遣労働に、希望を見いだせるのか。労働者派遣法改正案が衆院を通過した。派遣労働者が同じ職場で働ける期間の上限が、職種によらず一律3年となる一方、企業は人を代えれば派遣労働者を使い続けることができるようになる。正社員になる道も閉ざされかねないとして、派遣労働者は不安に揺れている。【東海林智】

 「今の仕事を失ったら、次の職は見つかるかしら」。東京都に住む派遣労働の女性(41)はため息をついた。

 コールセンターに勤務している。「専門26業務」に該当する仕事で、長く働くつもりだった。ところが、改正案が成立すれば専門26業務も他の業務と同様、3年を超えて同じ職場で働けなくなる。

 女性は大学院を出て16年。これまでに勤めた会社は15を超える。職歴を記した紙を見せてくれた。勤務した期間は、5カ月、1年、1カ月……。「派遣の不安定さをつくづく実感する」と言う。

 母子家庭に育った。「豊かになるには学歴が必要だ」と懸命に勉強し、首都圏の国立大大学院に進んだ。希望は理系の研究職だったが、修了時の1999年は「就職氷河期」だった。どうにかIT関連企業に就職したが、残業が月80時間を超える状態が続き、体調を崩した。「パニック障害」と診断され、退職した。女性にとってこの会社での2年10カ月間が、同一職場での過去最長の勤務だ。

 1年後、コールセンターに派遣で働き始めた。1日数時間という短時間の勤務が利点だったが、センター閉鎖で雇い止めに遭った。

 正社員の仕事を探したが見つからず、その後も派遣を続けた。同じ職場で同じ仕事をする派遣でも、派遣元が違うため自分の時給が300円少ないことを知りショックを受けたこともある。

 2008年には、時給が高めで気に入った職場を見つけた直後、リーマン・ショックに襲われ、契約途中で雇い止めになった。「正社員にする」と約束したはずの会社から契約を打ち切られたこともある。受注を見込んでいた業務に女性を充てる予定だったが、その業務を受注できなかったらしい。

 現在勤務しているコールセンターには、7〜8年働く派遣労働者もいる。雇い止めの不安を仲間同士で話題にすることはないが、それぞれに悩んでいるように思える。「法改正で派遣労働者はみんな不安を抱えるようになる。社会は目を向けてほしい」

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 19日午後の衆院本会議には派遣労働者ら約100人が傍聴席に詰めかけた。可決の瞬間、傍聴席から「ふざけるな」「ひどい」との声が漏れた。

 専門26業務の一つ「研究開発」で首都圏近郊のメーカーに勤める横浜市の30代女性は、「改正案に賛成した国会議員の中に、実際に派遣で働いている人の生の声を聞いたり、実態を知っていたりする人がどれぐらいいるのか」と肩を落とした。

 女性には小学生の子どもがいる。「給与は上がらないが安定を求め今の職場を探した。それなのに3年で職場を変わらないといけなくなる。一から人間関係をつくるのも大変。キャリアアップにもつながらない。先行き不透明で、とても不安」と胸の内を明かした。

 東日本大震災からの復興途上にある被災地の派遣労働者も将来への不安を訴えた。

 専門26業務の財務処理や経理を担う福島市の女性(43)は、「改正案が成立すれば3年以内に別の職場を探さないといけなくなる」と話した。「今の福島は復興需要で景気がいいけれど、長くは続かないと思う。経済状況が厳しくなったら仕事を探すのは大変」と心配している。【樋岡徹也、岡田英】

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