求職者支援制度:トイレ5分遅刻で手当なし 月10万円

http://mainichi.jp/select/news/20150622k0000m040091000c.html
毎日新聞 2015年06月22日

1カ月間の受講手当10万円を不支給とされた書類。右下に「遅刻(自己都合)」の記載がある=2015年6月7日午後2時34分、青木絵美撮影(一部画像を処理しています)(省略)
    
 失業者らを対象にした国の「求職者支援制度」を利用して介護職員研修を受けた福岡市の男性(64)が、休憩時間中にトイレに行き、講義に数分遅れただけで、1カ月分の受講手当10万円の支給を取り消された。手当は研修中の生活を支えるため国が支給しているが、遅刻した場合は理由を証明する書類が必要。証明できなかった男性は家賃を払えない事態に陥り、支援団体は「生活困窮者にとっては死活問題だ」と制度の改善を訴えている。

 制度は、国や自治体が委託した民間の教育機関などで3〜6カ月、講座や職業訓練を無料で受けて技能を身に着けてもらうことで、生活保護を受ける状態になる前に自立を促すのが狙い。民主党政権時代の2011年10月に始まった。失業者ら一定以下の所得しかない人には、月10万円の受講手当と交通費が支給される。

 福岡市の男性は、心臓の持病やけがで昨夏から仕事ができなくなったが、就職を目指して今年2月から福岡市内の教育機関で「介護職員初任者研修」(旧ホームヘルパー2級)を受講。無遅刻無欠席で1、2カ月目までは手当が支給された。しかし、男性によると、最終月となる3カ月目の4月13日、1時限目と2時限目の間の10分間の休憩中にトイレを利用した際、順番待ちもあったため2時限目に間に合わなかった。

 制度は一度でも欠席・遅刻・早退すれば、その月の給付金を支給しないと規定。例外として、本人の病気▽家族の介護▽入学式や卒業式への出席−−などを挙げ、医療機関の領収書や式の案内文書など証明書類の提出を求めている。男性は支給の窓口となるハローワーク福岡中央に遅刻の経緯を説明したが「証明するものがない」として4月分が全額不支給となった。このため家賃が払えなくなり、支援団体に立て替えてもらった。

 厳格な支給要件の背景には、前身の同種制度で、架空の受講者を仕立て、国から補助金を不正に受け取る教育機関が相次いだことがある。ハローワーク福岡中央は、毎日新聞の取材に「証明書類がない以上、不支給にせざるを得ない」と言う。

 男性が受講した教育機関によると、遅刻した時間が「5分」と記録されている。担当者は「トイレが理由という説明はあった」と話した上で「労働局から厳正な時間管理を求められており、受講者にもあらかじめ伝えている」と答えた。

 これに対し、受講者や支援者からは「厳しすぎる」という声が以前からあった。失業者や低所得者にとっては、体調不良で休みたくても当座の医療費を負担して受診すること自体難しいのが現実だ。5月に無事、介護施設に就職できた男性も「事情を一切考慮せず、本当に就職させようと考えての制度とは思えない」と訴える。

 生活困窮者らを支援するNPO法人福岡セイフティネット(福岡市)の斎藤輝二理事長は「たとえカットするにしても時間数で減額すれば良い。男性のように資産もない受講者の場合は、全額カットでは『野宿しろ』と言っているようなもので、安心して制度を利用できない」と話している。【青木絵美】

 【ことば】求職者支援制度

 雇用保険未加入者や失業手当が切れた人が対象。国が認定する民間教育機関での「求職者支援訓練」と、自治体が運営する「公共職業訓練」があり、分野は介護やITなど。本人収入月8万円以下▽世帯全体収入月25万円以下▽世帯資産300万円以下−−などの要件を全て満たし、全出席すれば月10万円の受講手当が支給される。「求職者支援訓練」の受講者は昨年度約5万5000人で、約4割が手当を受給した。

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